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(353)畜産農家のキャッシュフロー【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年10月13日

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飼料価格が高騰してからかなり時間が経ちます。言うまでもなく飼料の大半は輸入穀物であり、その中心がトウモロコシです。先日、地元の飼料会社の社長さんにお話を伺いました。

筆者の勤務先では地域の食産業に従事している様々な方の話を聞く機会を設定している。こうした授業は食産業の「現場のリアル」を知るために非常に有益であり、学生の関心も高い。ベテラン教員のネットワークを生かし、毎回さまざまな分野の第一線で働く人の話を聞くわけだ。

オペレーションは一人ではとても回しきれないので複数教員で分担するが、多忙な経営者の日程を大学の時間割に合わせて都合して頂くのはかなり大変である。それでもその手間を上回る良質な教育効果が期待できるし、我々、教員・学生双方にも現場のナマの声を教室でしっかりと伝えて頂くことは大きな刺激になる。

先週、古巣の伝手を活用して地元の飼料会社であるJA全農北日本くみあい飼料株式会社の浦田克博社長にご登壇頂いた。
参加した学生の半分は生物生産学類、そして残りの半分はフードマネジメント学類という形で専門性が異なり、関心も異なる。食産業を構成するフードシステムを川の流れに例えれば、生産から消費に至る上流に関心がある学生が前者、中流から下流に関心がある学生が後者ということになる。

飼料会社は当然、上流に関わる。畜産分野を専門としない多くの学生にとっては焼肉やステーキは好きでも牛・豚・鶏のエサを見ることは少ない。終了後の感想やコメントを通じ、長年こうした飼料を見慣れた身からは考えもつかないような興味深い観点からの質問も楽しい。後日になるがしっかりとフィードバックも予定している。

さて、講義の中で最も印象に残った話は、やはり最近の飼料価格高騰が農家経営にいかに影響を与えているかという部分である。実際の講義では、具体的な畜種ごとにわかりやすく詳細な説明をして頂いた。

ここでは全国ベースにアレンジした上でポイントのひとつをご紹介したい。もちろん、地方や畜種ごとの特徴、あるいは個別農家にも違いがあるため、あくまでも想像上の分析である。農林水産省によれば、2023年2月1日時点の日本の乳用牛頭数は135.6万頭であり、飼養戸数は1万2600戸である。単純平均では1戸当たりの飼養頭数107.6頭になる。そこで、わかりやすく想像上の実在しない乳牛農家を考えてみたい。飼養頭数を100頭としよう。これをイメージして頂きたい。

さて、乳牛は毎日どのくらい飼料を食べるか。生育段階にもよるが、ここでは仮に穀物中心の濃厚飼料、つまり配合飼料を10キログラム、サイレージや草などを20キログラムとする。とりあえず、濃厚飼料だけで見ても、100頭の牛が食べる飼料は、10キログラムの100倍、つまり1日1トンになる。ひと月では約30トンになる訳だ。

ところで、(公社)配合飼料供給安定機構の資料によれば、2023年2月時点の配合飼料の工場渡し価格はトン当たり10万222円である。実際にはこれに各農家までの輸送費が加わるが、これもわかりやすく10万円とする。ひと月の飼料代は単純計算で300万円になる...という訳だ。想像上の100頭飼育、それも配合飼料の飼料代金である。

講義ではさまざまな事例をご紹介頂いた。規模が大きくなれば支払金額も大きくなるのは明らかだ。「毎月数百万円の支払いをこなしながら」、大量の家畜を育てる...これが現在の畜産農家のリアルである。多くの学生はこの前半部分に相当の衝撃を受けたようだ。

学生達は数年以内に就職するが、そこで新卒社会人が受け取る給料は現状22~23万円程度、業種にもよるが年収の中央値は300万円弱であろう。

単純平均で試算した想像上の畜産農家ですら、新卒社会人の年収をはるかに上回る資金を毎月動かしていることが実感できたのだと思う。これは農家を経営者として考える際の重要なポイントである。

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モノで考えること、そして金額で考えること、ビジネスにはいずれも重要です。

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