(356)「特定技能制度」と食産業【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年11月6日
少し前に「特定技能制度」が話題になりました。この制度の運用状況について最近の公表資料を眺めてみましょう。「特定技能制度」とは外国人向けの在留資格です。
特定技能制度とは外国人向けの在留資格(いわゆるビザ)であり、正式には「出入国管理及び難民認定法および法務省設置法の一部を改正する法律」が2018年に成立したことにより2019年4月から施行された制度である。
我々は海外に行くときに国によってはビザを取得するが、外国人が日本に長期滞在するために必要なビザと考えればわかりやすい。やや硬い表現で言えば「特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人」が、日本で就労するために取得する資格である。
この制度の背景としては、国内に労働力需要があるにもかかわらず、実際に人手が足りない分野の労働力を外国人によりカバーするという現実的対応と考えることができる。
対象として定められている分野は12分野あり、「介護」「ビルクリーニング」「建設」「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」「造船・船舶工業」「自動車整備」「航空」「宿泊」「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」である。ざっと見ただけでいずれも我々の日々の生活に、実は深く関係している分野であることがわかる。
なお、どこの国でもそうだが、外国人労働者の就労には非常に丁寧かつ慎重な対応が求められる。賃金だけでなく、食事や習慣、文化、住居、帯同家族や子供たちの教育など、影響が社会生活全般に及ぶからだ。「郷に入っては郷に従え」というのは一面での真実だが、現在のように情報が一瞬で世界中に拡散され共有される環境の中では、独自ルールですら世界各国からその妥当性を比較・評価されるということに留意しておく必要がある。
さて、この制度で在留資格を得るため外国人は、技能試験と日本語試験という2つのハードルをクリアする必要がある。「農業」分野であれば、前者は「農業技能測定試験」がある。これは耕種農業・畜産農業の2つの分野において国内外で試験が実施されている。
日本語能力試験は難易度がN1~N5まであるが、N4以上のレベルが求められる。「日本語能力試験」で検索・確認可能なサイトには問題例も出ている。関心がある方は試してみると良い。簡単な漢字の読み方から、文脈による意味の判断、内容の理解までそれなりに興味深い。日本語をツールとして見た場合、こういう観点から評価するのかという意外な発見と出会うと思う。
さて、出入国在留管理庁が公表している資料によれば、2023年6月末時点(速報値)で、17万人強の外国人がこの特定技能制度により在留している。このうち日本上陸時に「特定技能」の許可を受けて在留するものは約25%であり、残りは在留資格変更許可を受けて「特定技能」で在留する者である。
国籍別にはベトナム(56.3%)、インドネシア(14.3%)、フィリピン(10.2%)と、この3カ国で全体の8割を超える。また、分野別に見た場合、最も多いのは「飲食料品製造業」(30.8%)、次いで「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」(20.6%)、「介護」(12.7%)の順だ。
だが、少し見方を変えると異なる風景が見えてくる。
総数17万人のうち、飲食料品製造業(30.8%)、農業(12.1%)、外食業(5.1%)、漁業(1.2%)という食産業関連の4分野合計は49.2%とほぼ半数に達していることに注目した方が良い。つまり、現実に特定技能制度で在留している外国人の半数は今や農業・漁業を含めた食産業に従事している。日本の食産業全体の就労者数から見ればまだ絶対数は少ないが、こうした状況は、多くの人が何となく感じてはいても実は余り見えていない部分でもある。
* *
この制度、導入当初は「介護」分野がかなり注目されていましたが、5年を経てみると興味深いですね。
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