コメの市場があるメリットとは?その17「勉強すべきは先物+保険の仕組み」【熊野孝文・米マーケット情報】2023年11月7日
農水省は11月2日に第2回目の「米の将来価格に関する実務者勉強会」を開催した。
この勉強会は非公開なので、議事録の概要が公表されるまではどのようなことが話し合われたかわからないが、第1回目では当たり前ではあるが、将来価格がわかることの有用性をあげる意見が多く出た。この勉強会を主催する大臣官房新事業・食品産業部によると「将来価格の決め方には相対価格や事前契約価格、先渡し価格契約など多様であり、その中に先物市場価格もある。そうした多様なやり方について議論を深めてもらいたい」としている。この実務者勉強会は11名で構成されているが、このうち4名がコメの生産者である。
規模の大きな稲作農家で組織される全国稲作経営者会議の会員社もこの実務者勉強会に参加している。全国稲作経営者会議の古谷正三郎会長は、自らの経営の安定のためにコメ先物市場を利用してきただけに「なぜ先物市場がなくなったのか理解できない」という。
将来価格を決めることによってリスクヘッジするという手法を使えるというのは非常にわかりやすいとしており、古谷会長だけでなく稲作経営者会議の会員は先物市場を利用してきた。こうした経緯があるだけになぜ今更コメの将来価格の勉強会など開く必要があるのか奇異な感じで眺めている。
コメの生産者が勉強すべきは「市場」を使ってどのように所得を確保して経営を安定させるのかという点で、大連商品取引所のコメ先物取引で行われている「先物市場と保険を組み合わせた取引」は参考になる。
(財)農政調査委員会は10月23日に第6回農産物市場問題研究会を開催、ジャーナリストの山口亮子氏が「大連の先物市場について」講演した。大連商品取引所では、トウモロコシや大豆、大豆油、パーム油、合板、卵のほか生きた豚まで上場しており、ジャポニカ米は2019年8月に上場された。
ジャポニカ米の商品設計は、取引単位は1枚(手)10トンで、値付け単位は1元、値幅制限は4%、取引限月は1月~12月までの1年間。取引の標準品は中国で生産されるジャポニカ米で、日本のような産地銘柄の取引ではなく単一商品。受け渡し地区によって格差が生じる。取引高は多い年で数量ベースでは5000万トン、今年に入ってからも3000万トン、金額ベースでは1250億元、日本円換算で約2兆円に達している。
中国にとってコメ先物市場が必要な理由は、食糧安全保障と3農問題解決のためである。3農とは農業、農村、農民のことで、これが解決しないと中国共産党の基盤が揺らぐ。現物市場の価格変動は農家にとってリスクになり、その変動をヘッジするために先物市場に上場された。ただ、中国の稲作農家は日本の農家と同じように小規模農家が多く、金融を理解できないため「農家のリスクを金融事業者に付け替える」という方法が編み出された。
「保険+先物」は中国共産党が年初に重要な政策決定を示す「1号文件」に8年連続で掲載されている。これを推進することによって、価格変動によるリスクを回避するとともに、農家の収入を上げる目的で中国の地方政府が間接的に補助しているという。
こうした「保険+先物」の仕組みは日本の稲作農家にも役に立ち、実際、農業保険に関心を持つ保険会社も関心を寄せているという。講演会終了後も参加者から保険+先物の具体的な仕組みについての質問が多く寄せられた。
試験上場期間中の日本のコメ先物取引は、法人格をもったコメの生産者が先物市場で取引する場合、一般の会社と同じく一定額の証拠金を積まなくてはならなかった。仮に秋田のコメ生産者が今年4月に10月に収穫されるあきたこまちを1万4000円で200俵分売りヘッジしたとする。それに見合う証拠金が必要になり、かつ10月限が値上がりした場合、追加の証拠金も必要になるというケースも生じる。
あらかじめ所得を確定するために行う先物市場への売りヘッジを保険会社に委託して任せてしまえば、生産者は現物のコメさえ担保すれば良く、はるかに利用しやすくなる。
さらに日本のコメはナラシや収入保険と言った国が保証する制度もあり、これらと組み合わせた「保険+先物」の制度設計をすれば、生産者が負担するリスクヘッジの経費も少なくて済む。
また、先行きの価格がわかることによって生産者はその年に何を作れば良いのかという経営判断できるようになり、生産調整もスムーズに進む。過剰生産による価格の下落を防ぐことが出来、結果的に国の負担も軽減される。
コメの現物市場や先物市場の仕組みをしっかり勉強して、その機能性を既存の保険制度と組み合わせ、最大限に生産者がメリットを享受できる商品設計、システムを構築すべきなのである。
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