子どもの手伝い-家事-【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第264回2023年11月9日
今から30年くらい前になるだろうか、仙台駅から家までタクシーに乗ったとき、私と同年代の運転手さんと昔話になった。山村の生まれだという運転手さんはこんな話をしてくれた。
子どもの頃、田畑の仕事はもちろんのこと、山仕事も手伝わされた。忙しいときは学校を休まされもした。そこで朝こっそり家を抜け出して学校に行く。すると、学校から帰ってから親にさんざん怒られた。「手伝いたくないから、遊びたいから学校に行ったんだろう」と。実はそうだった。ともかく学校に行くのが楽しかった。
ところが今は逆で、学校に行きたくなくとも行け、と親は子どもたちに言う、おかしな世の中になったもんだ。
そう言って彼は笑う。
私もそれにまったく同感だと、二人で大笑いをした。
そうだったのである。かつての農林家の子どもはまさに労働力だった。
子どもには子どもの仕事があった。小学校に入る頃から仕事が与えられる。その仕事は年齢に応じて変わり、少しずつ増えていく。大人はもちろん、子どももそれが当たり前と思ってやっていた(いやだ、もつと遊びたいという気持ちはあったが)。
学校もある程度はそれを認めた。田植え休みや稲刈り休みの日をつくって家の仕事の手伝いをさせたし、弟妹をおんぶして学校に来ることも許した。
老若男女どころか老幼男女、すべてその能力に合わせて生産・生活にわたる家の仕事を分担せざるを得ない時代だったからである。
手労働段階、せめて畜力段階という状況のもとでは、さらに飼料、肥料等の生産資材の自給が必要な段階では、農業生産に多くの労働力が必要とされた。ともかく忙しく、労働力はいくらあっても足りなかった。農繁期などはなおさらそうだった。
さらに家事労働がある。現在のように電化製品はなく、水道すらない状況の下で、しかも大家族を抱えての家事労働はすさまじいものだった。
また、自給できる生活資材は何でも生産しなければならない時代でもあった。金があればよそから買うこともできるが、金がないので自分の家で生産しなければならないからだ。
それで年中暇なしだった。だから子どもも働かせなければならなかった。ましてや高等教育などを子どもに受けさせる暇も金もなかった。
子どもの労働はまた、身体で仕事を覚えさせるためのものでもあった。当時の経験と熟練がものをいう技術段階では、しかも多種多様の作物・家畜・農産加工品の、そのまた多種多様の作業工程にかかわる知識と技能が必要とされていた段階では、子どものころから技術を叩き込む必要があったのである。
そして伝統的な技術を身につけて働けば食ってだけはいけた。だからとくに教育などなくともいいと考えられていた。
私も、小学校に入るころからまず家事を手伝わさせられた。
庭と土間の掃除が毎朝の仕事となる。今考えてみれば狭い場所なのだが、子どもにとってはかなり広く、毎日の日課となることがつらい。また朝夕の縁側の雨戸の開け閉めがある。立て付けの悪いしかも重い板戸を十枚も動かすのはけっこう大変である。ときどきは縁側の雑巾がけを命じられる。
こうした掃除は、初夏と秋の大掃除のときに家族ぐるみで大掛かりにまたていねいになされるが、とくに初夏の場合には畳上げや畳叩きがあり、子どもはその手伝いをさせられる。これは大変だがおもしろい。畳の下に敷いてあった古い新聞紙を読むのも楽しみだ。
障子貼りも子どもの仕事だ。糊と刷毛で障子紙を貼り付けるのは非常に難しくて大変だけど、いつもは固く禁じられている障子破りがおおっぴらにできるのが楽しい。年末には煤払いの手伝いがある。
台所仕事は、かつお節削り、大根おろし、とろろすり、ごますり、クルミ割り、みがきにしん叩き、正月の餅切り等々の細かい手伝いが命じられる。ただし料理の手伝いは絶対させられなかった。男は台所に立つものではないというのが祖母の口癖だった(台所は女の城だった)。それでも食べ終わった自分の茶碗や皿は家長の祖父以外男も台所まで運んだ。
少し大きくなると、ご飯焚きだ。ご飯は稲わらで炊いていた。かまどの前に座り、祖母か母にくるっとまるめてもらった稲わらの束を一つずつかまどの中に入れ、燃え終わるとまた入れるを繰り返す。沸騰してくると、わら入れをやめる。真っ赤になったわらの燃えかすが残り火となり、いい味に炊きあげる。
籾殻を燃料にする糠窯(ぬかがま)もあり、この籾殻を貯蔵している小屋から油の空き缶(一斗缶)に入れて運び、円筒形をした窯をいっぱいにするのも子どもの仕事だった。
それから水汲みがあった。これはさらに大変だった。
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