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【やさしい経済の話】財政破綻の不都合な真実(下)『痛み』伴う財政再建2023年11月14日

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経済に詳しい元東洋経済新報社社長で石橋湛山記念財団評議員などを務める浅野純次氏が解説する「やさしい経済の話」。今回は「財政破綻の不都合な真実」について問答形式で解説してもらった。

大地 どうもごちそうさま。コーヒーに草餅って、意外においしいね。喫茶店でもメニューに載せたらどうかな(笑)。では再開しますか。

里花 さっきの統合政府だけど、国債を日銀が抱え込む限り借金の上限はないということにならないかしら。

大地 鋭いね。親会社が優良子会社から際限なくカネを借りて野放図に投資しても、連結決算では借金が消えて一見、何も問題ないというような話だからね。もちろん統合論者もおのずから限度はあると言っているけど、その限度はやや曖昧だ。

里花 ほかにも大丈夫説はあるの?

大地 国債を買っているのが9割以上は日本国内の資金なので、過去のアルゼンチンやギリシャのようなデフォルト、つまり返済不能ということはない、というのがよく言われる説だ。

里花 確かに国内の買い手なら日銀券で返済することはできそうね。

大地 ドルなど外貨で返済するのは国によっては大変なので、返済不能つまり債務不履行ってよくあることだ。で、国内での国債消化は確かに安定性は高いけど、これも程度問題だね。もし最悪の事態が近いとすると、金融市場は大混乱する可能性がある。

里花 最悪の事態がどこか、どう判断すればいいの?

大地 そうなんだ。そこが問題でね。2年前に当時の矢野康治財務次官が『文藝春秋』で「地方債務を合わせればGDPの2・2倍にもなり、このままでは国家財政は破綻する」と警鐘を鳴らしたら、アベノミクスの理論的支柱だったイエール大学の浜田宏一さんが「GDPの10倍になっても大丈夫だ、国債を買ってくれる人はまだまだいる」と反論したことがあった。一種の神学論争で議論はかみ合わないままだけれど。

里花 GDPの何倍か、とか何か目安はないのかしら。

大地 奥村洋彦教授に聞いたら、「経済には不確実性が内在している以上、何倍までなら大丈夫などということはできない。だから金利が市場で警報を鳴らせるようにしておくことが必要だと思う」という答えだった。確かにそうだ。昨今、金融市場は日銀の完全コントロール下にあるから、市場が危険信号を発してブレーキをかけることは今はないけど、早く市場メカニズムが働くようにしないといけない。

里花 ちょっと難しいけど、わかった気がする(笑)。

大地 右手左手論というのもある。右手は国民で国債を買う。国民の個人金融資産は2100兆円もあり、右手がこれで間接的に国債を買っている。で、国債発行で得られたカネは公共事業や教育費、社会保障費などとして左手に渡る。つまり同じ国民のために使われるのだから、国民から国民へカネが動いているだけのことだ、という説だ。だから国債が大量に発行されても問題はないというんだね。

里花 税金を払うのは右手かな?

大地 これは面白い。どっちだろう。問題は、今の左手はいいとしても、将来の国民の右手、今より重い納税義務を負わされる右手も考えないと。

里花 思わず両手を眺めてしまうわ。

大地 はは。じゃあ政府債務拡大の弊害の話に移ろうか。主な批判点としては、①流動性の危機②信頼性の危機③所得再配分の問題④世代間問題の四つかな。①は「公的債務の取り付け」とも言われるけど、銀行と違って取り付けはもちろん起こらない。ただ金融市場は混乱するだろう。②は政府の信頼性だけど、これが失われるとやはり金融市場の混乱が起きる。混乱というのはほぼ金利の高騰ということだ。③は増税必至となると階層ごとの有利不利が起きざるをえない。④は今、言ったとおりだ。

里花 金融、為替、株式などの市場が混乱するということね。債務が過大にならない方策はどうなのかしら。

大地 案外、単純なことしかない。これも並べてみると、①歳出カット②増税③政府資産の売却④リフレ政策⑤徴税・執行の強化――などだ。①は防衛費一つとっても米国の言いなりの兵器代など無駄は多いと思うよ。②は楽観派には受けが良くなくて「最後の最後だ」そうだけど、国際的にみて増税の余地がないわけではないと思うけどね。③は特殊法人がらみや民営化などだ。④は要するに成長政策と言ってもいい。⑤はまだ取りはぐれが多いと言われているから、案外、大事かも。歳入庁をつくれという人もいる。

里花 カネがないのは知恵がない、という金言を思い出したわ。

大地 財政危機が起きようと起きまいと、平時から財政再建の努力はしないといけないね。でも今、挙げた方策にしても不利益を被る人たちは猛反対するから、それこそ政治が主導して変えるべき点は変えていかないと。

里花 そうね。国民に人気取りのような政治家ばかりでは困るわね。

大地 今年、没後50年の石橋湛山が首相になったとき、「私どもがご機嫌取りばかりしていたら国のためにも国民のためにもなりません。私はご機嫌取りはしないつもりなので、ご理解をお願いしたい」と言ったんだ。こんな政治家は今、ほとんどいないだろう。

里花 でも国会議員は私たち国民が選んでいるわけだから...。

大地 そうだね。選挙は言うまでもないけど大事だよね。朝三暮四じゃないけど、朝、何個くれたなんてことばかりで投票していては将来は見えてこない。税財政って、最も長期的な視点で負担や成果をみていくべきものだから、国民自らしっかりしないと。

里花 税金のことだけ関心をもって財政に無関心ではだめってことね。

大地 税と社会保障の一体改革というけど、その後ろには財政が控えているわけだから。じゃあ、今日はこのくらいで失礼しよう。

里花 財政も結構面白そうだってわかったわ。今日はどうもありがとう。

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