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門松の松は山から切ってくるの?【花づくりの現場から 宇田明】第22回2023年11月16日

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早いもので今年もあとわずか。
12月になると、全国の花市場で特別な市(いち)が立ちます。
松市と千両市です。
キク、バラ、カーネーションなどは、1年中取引されていますが、お正月の縁起物、松と千両だけは年に1日だけの市です。

花市場の社員研修で新入社員から、この1日だけの市に大量に出荷されてくる松は、山から切ってくるのですかと質問されたことがあります。

町内会を通じてわが家に配布された紙門松市場の新入社員ですらわかっていないのですから、多くの消費者がお正月の門松は、だれかが山から枝を切ってきたと考えても不思議ではありません。

お正月に門松や生け花につかう松は、農家がたねをまいて、畑でつくっている農産物であることを知っている消費者は多くないでしょう。

松は山から切ってくるとの誤解は、役場が年末に配る「紙門松(かみかどまつ)」に原因があります。
写真1は、町内会を通じてわが家に配布された紙門松。

配布したのは「緑化推進連絡協議会」で、事務局は役場の林業担当部署。
なんとなく、本物の門松をやめ、紙門松で代用することが緑化推進になるというイメージを与えます。
たしかに昭和30年代前半までは、煮炊き、風呂など家庭のエネルーギー源はまきでした。

そのため、都市近郊ははげ山だらけ。
昭和25年から全国植樹祭が天皇皇后両陛下ご臨席のもとで開催されるようになったのも、森林を保護し再生させることが目的のひとつ。

それに加えて戦後の新生活改善運動。
戦前の因習をあらため、民主主義を生活に定着させるために、国が国民によびかけた運動です。
新しい道徳運動の展開、社会生活環境と風俗の刷新、家庭生活の科学的合理化などが推進されました。

そのひとつがお正月の松飾りで、本物の松をやめて印刷された紙門松で代用する運動。
おせっかいといえばおせっかいな官製運動。

松は、キクや草花、キャベツや大根とおなじように畑で栽培される普通の農産物。
松ボックリからたねをとり、苗をつくり、畑に植え、3年目に収穫。
超密植栽培で、徒長させ、すらりと伸びた松に仕上げます(写真2)。

門松の栽培風景

松市にあわせて11月から掘りとりがはじまり、12月上旬に一斉に出荷されます。
門松、若松、枝松、三光松、からげ松、根引松など多くの種類がありますが、つくりかたを変えただけの商品名で、植物的にはすべて黒松。

おなじ黒松でも産地により形態が異なります。
最大の産地は茨城県で、鹿島産は木肌が黒く葉の緑が濃いですが、おなじ茨城県波崎産は木肌が明るく、葉が細く、短いのが特徴。
関西の大産地は兵庫県丹波、木肌が黒く、葉が太くやや長い。
四国は愛媛県が産地で、草丈が長く、緑の穂も長いのが特徴。

門松、しめ飾り、鏡餅、獅子舞、羽子板などお正月行事は、もはや漫画のサザエさんでしか見られなくなっていますが、意外なことに松の消費は増えています。
大田市場花き部では、2022年の取引量は20年前の20%増です(東京都中央卸売市場花き部年報)。
それは、お正月のシンボルとして松がぴったりだからです。

お月見にはススキと満月のようにまん丸で黄色のピンポン菊、ハロウインにはカボチャ、クリスマスには赤と緑の葉のポインセチアがシンボルのように、花束に松が1本入るだけでお正月らしくなります。

ただしこれら花束に加える松は、家庭環境にあわせて短くて細い下位等級が主で、太くて長い高級品が売れにくくなっています。

また、12月上旬一極集中の出荷にあわせるため、短期間のアルバイト、パートを大量に集めるのが難しくなり、伝統的な栽培技術をもつ松農家は経営に苦しんでいます。

このように、お正月の門松、若松などは、農家が畑でつくっている農産物で、森林破壊、環境破壊には無関係で、逆に温室効果ガス削減に貢献しています。

お正月行事はどんどん廃れていますが、せめて松でも飾り、清々しい気分で新しい年を迎えたいものです。

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