堂島取がコメ先物本上場に向け再起動【熊野孝文・米マーケット情報】2023年12月5日
(株)堂島取引所は11月28日に「コメ先物の市場開設に係る有識者会議」の初会合を開催した。これは堂島取がコメ本上場に向け再起動したことを意味しており、コメの当業者(生産者、集荷業者、卸、実需者等)の賛同を得て、当業者が活用しやすい商品設計を行って農水省に本上場申請することになる。コメの当業者の意見を入れて早ければ年明け早々にも商品設計の具体案作りに着手することになる。
「コメ先物の市場開設に係る有識者会議」のメンバーは、渡辺孝明新潟食料農業大学学長、吉田俊幸農政調査員会理事長、木村良全米販理事長ら10名で構成されている。初回はみらい米市場の折笠社長とクリスタルライスの山村社長が現物市場のプゼンテーターを務めた。
これはコメの産業インフラとして市場を整備するには、現物、先渡し、先物清算市場の3つの市場が欠かせず、まずは現物市場の機能を把握することから始まった。
この会合とは別に農水省は「コメの将来価格に関する実務者勉強会」を開催しており、11月2日に開催した勉強会の議事録を公表している。その中には生産者から先物市場の価格発見機能や将来所得の確保などの評価以外に卸業者から「先物市場で売りを建てた場合に、仮に米が余りそうにないときは、先物市場で買戻しすることによって、先物で売りを建てた米についても米を渡さずに手元に確保することができる。現物を売った場合、売ったものと同じ米を改めて確保することは困難であるが、先物市場では同じ米を確保できるというメリットがあり、価格的なリスクヘッジだけでなく、商品的なリスクヘッジを行っていた」と言う実際のビジネスに役立たせてきた手法も紹介されている。
また、農政調査委員会はこれまで7回にわたり「農産物市場問題研究会」を開催、農産物取引市場が持つ価格形成機能になどについて専門家による講演会を実施、中間とりまとめを行い、コメについて公共性のある現物市場や先物市場の有用性を報告書にまとめ農水省に提出することにしている。第7回目は総括としてコメの先物市場について、立正大学経済学部の林康史教授が「コメ先物市場を考える」と題して講演、また、参加者の関心が強かった大連商品取引所のジャポニカ米取引で行われている「先物+保険」の仕組みに関して元函館大学の藤原凛氏が制度の中身を説明した。まとめとして「コメの先物取引-常識と非常識」題して渡辺学長が講演した。
渡辺学長はコメ先物取引が正しく理解されていないことで生じる9つの誤解について一つ一つわかりやすく説明した。
その中には、コメの当業者から「コメの取引は産地・銘柄が多様であり、先物のような大雑把な上場区分では、授受の際に、買い手にも売り手にも思った通りの品物が渡らない可能性が高い」という見方もあるが、これに対しては「先物取引と先渡し取引の全くの混同で『特定のスペックが欲しいなら、先渡し取引で契約して現物を確保、その後に生じるかもしれない価格リスクは先物契約でヘッジして金銭面の保険を掛ける』とし、試験上場中に先物市場で現物の受け渡しが多かったのは『現物市場の未整備』の現れ」だと述べた。みらい米市場やクリスタルライスが現物市場として先渡し取引がしっかりと出来るようになれば、先物市場では価格変動のリスク回避に限定し、現物の受け渡し・確保はみらい米市場やクリスタルライスで行うという手法もとれる。堂島取がみらい米市場に出資したのもそうした役割を担ってもらうという狙いもある。
この他「先物のような投機的なものではなく、生産者や流通業者などを集めた現物取引をしていけば公正な価格の指標として足りる」と主張するところもあるが、これについては①現物取引ほど価格リスク、授受、決済リスクが高い②先物取引では、法律上、取引所と清算機関が関与して契約は完全履行される(商品先物取引法で必置義務)③現物市場にはヘッジ機能がない(また、経営の視点から見ると、海外の例では、先物取引につないでいる商品「在庫など」には、会計上の資産価値を先物の売買価格で評価、計上できる=ヘッジ会計)。
最たる誤解が「先物取引が価格高騰と乱高下の元凶である」と言うもので、これについては大正時代のコメ騒動の時の現物&先物相場の論争で、時の仲小路農商務相が「米価高騰の元凶は先物だから取引停止せよ」と主張したのに対して、相場師の増田貫一は「米価高騰の原因は需給関係と超金融緩和で、相場師を叩いても相場は下らず力ずくの米価抑制は端境期の品不足と価格大暴騰になる」と主張し、その通りになった。先物取引の仕組みを理解すれば価格平準化作用があることは容易に理解できる。
渡辺学長は「やはりコメには先物市場が必要だ」と締めくくった。
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