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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】価格転嫁ができない原因を「見える化」2023年12月7日

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農産物の価格転嫁問題が大きな課題になっている今、jacomで11月20日に紹介いただいたように、拙著『協同組合と農業経済~共生システムの経済理論』がJA研究賞を受賞したことには意味がある。本書は、「価格転嫁ができないのは『価格が需給で決まる』からでなく、不当な買い叩き圧力があるからだ」と明らかにし、どの程度買い叩かれているかも数値で「見える化」し、独禁法を適用すべき対象が間違っていることを示した。

共販の効果の「見える化」

市場原理主義経済学は規制撤廃こそが社会の経済的利益を最大化すると説くが、それは市場参加者が誰も価格支配力を持たないことを前提とした架空の理論であり、寡占的構造が常態化している現実社会では、規制緩和は寡占的企業への利益集中を促進し、経済格差を増幅するため、規制緩和は正当化されない。
農産物を買い叩き、消費者には高く売って差益を増やそうとする寡占的企業の行動を抑制するには農協、漁協、生協などの協同組合に代表される共生システムが生産者と消費者の双方に適正な価格を提供する役割を果たすことが不可欠である。
本書は、具体的に農協共販によって、例えば、コメでは1俵約3,000円、牛乳では1kg約16円の生産者価格向上効果が発揮されていること、消費者価格は抑制していることを新たに開発した計量モデルで実証した。

買い叩き圧力の「見える化」

さらに、取引交渉力のパワーバランスを0~1の数値で示し、0.5を下回っていると農業サイドが買い叩かれていることを示す指標を開発して、ほとんどの品目で数値が0.5を下回り、農協共販の効果はあるものの、それでも、まだ、買手側に有利な価格形成が行われていることを明らかにした。
今、農業生産資材高騰にもかかわらず農産物の販売価格への価格転嫁が十分できずに農家が苦しんでいる根本原因もここにある。つまり、価格転嫁ができないのは、「価格が需給で決まる」からでなく、不当な買い叩き圧力があるということだ。
この結果から、「農協共販により不当な利益を農協と農家が得ている」として農協共販を独禁法で取り締まるべきとする規制改革推進会議などの主張は間違っており、農協共販がさらに強化されることこそが有効であること、そして、本来は、小売部門の「優越的地位の濫用」こそが、独禁法上取り締まられるべきであることを実証した。
このように、本書は、協同組合の生産者・消費者への貢献度を数値で「見える化」することで協同組合研究に新たなステージを拓くとともに、規制改革推進会議からの農業協同組合への批判の間違いを数値で示し、本来あるべき政策の方向性を示唆した。

研究の経緯と意義

著者が農林水産省で行政に携わったのち、研究職に転じて農業総合研究所で開始した最初の研究が、生乳の価格形成メカニズムの解明であった。それを出発点として、九州大学、東京大学の学生指導と研究活動の中で、酪農協とメーカーと小売部門との取引交渉力のパワーバランスの数値化に取り組み、さらには、コメや野菜などの他部門も含めて、農業協同組合の価格形成における役割の数値による「見える化」の研究を蓄積してきた。
規制改革推進会議などによる農業協同組合批判が行われ、共同販売や共同購入が不当なものであるかのような主張が展開される中、著者の一連の研究成果の集大成として、本書を世に問うことにより、そうした批判の間違い・不当性を明確に数値で示すことが不可欠と判断し、本書をまとめ上げた。
さらに、今、農業生産資材高騰にもかかわらず農産物の販売価格への価格転嫁が十分できずに農家が苦しんでいる根本原因も「価格が需給で決まる」からでなく、不当な買い叩き圧力があるからだということを明確にしたことも、今後の対策の検討に資するものと考えられる。
なお、今回の受賞は、食農資源経済学会賞に続く受賞で、評価して下さった皆さん、一連の研究を指導して下さった皆さん、一緒に研究に取り組んできた学生の皆さん、多くの方々に感謝したい。拙著を農林水産業の危機打開に少しでも活用いただきたい。

表 産地vs小売の取引交渉力の推定結果

注) 産地の取引交渉力が完全優位=1、完全劣位=0。飲用乳はvsメーカー。共販の力でコメは3000円/60kg程度、牛乳は16円/kg、農家手取りは増加できている。

協同組合と農業経済 共生システム経済理論

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