(361)方法の変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年12月8日
いつ頃の話か正確な記憶はありませんが、古い友人達と雑談をした際、「最近はまともに本を読んでないなぁ…」という話を聞きました。
筆者が育った時代、読書はそれなりに評価される趣味であり、同時にさまざまな知識や発想を得る確実な手法のひとつであった。最近はどうだろうか。大学の授業の方式もかつてのように一方的な講義から双方向的な仕組みを導入するところが増加し、さらに一歩進んでアクティブ・ラーニングやPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング:いわゆる課題解決型学習)などが増加している。
指定された教科書を中心に、教員や学生がじっくりと文字テキストを読み考えるという形から、スライドなどを用いて視覚的な理解を助け、実際に現場で直面する課題に取り組むことを通じてさまざまな知識や技術を習得させることが実施されている。
筆者自身も演習以外の講義ではスライドを基に講義を実施している。そのため、事前準備は前回の授業に対して出されたコメントや質問に対するフィードバックを含めたスライドのアップデートが中心である。そのような生活を20年近く続けてきた中で、何となく気になっていたことがある。
教科書内容を簡潔にまとめ、追加情報を記載したスライドを作成すると、学生の多く(全てではない)は指定した教科書を読まずにスライドだけを取得するか写す。その方が早い。試験前には各回に配布されたスライドにメモを書き込んだものを必死に覚える...という行動パターンをよく見るようになった。
授業では、いわゆる伝統的な紙のノートを使用する学生が激減した。携帯やパソコンに置き換わっている。そもそもコロナ以降は感染対策も含め、ほぼ全ての授業の出欠確認や質問・感想などをネット上で完結させる仕組みが多くの大学で普及している。講義のはじめ、最中、あるいは終了後などに各学生は自ら教員が設定したオンライン上のスペースで出欠確認やコメントを入力する。知識や理解度の共有をリアルタイムで確認する方法としては極めて便利な仕組みである。
大昔、授業をさぼった学生が欠席回の講義内容を試験前に他の学生にコピーさせてもらったような行動パターンは今やほぼ消滅したのではないか。スライドを学内公開している授業なら講義中とくにノートを取る必要もないし、「ノートのコピー」はオンライン上のファイルのやり取りで済む。こうした変化は時代とともにいわば自然発生したものとして横目で見ていた。
唯一の懸念は、分厚いテキストを圧縮したスライドにまとめているのが、ほぼ全ての場合、教員だということだ。これには良い面も悪い面もある。実は先人がまとめた分厚いテキストの内容を読むという一種の苦行には、それをどう読みこなすか、さらに異なる形で解釈するか、あるいは先人が見逃したり、新しい視点をどう獲得するかという過程が含まれている。
この過程をショートカットし、要領よくまとめたものを暗記することは、恐らく目の前の試験対策としてはそれなりに有効かつ効率的であろう。ただし、物事の本質を深く考える能力が習得可能かといえば、どうもまだ評価が難しいのではないだろうか。
もちろん、評価は大学での学びの視点と求める成果をどこに置くかで異なる。例えば、読書云々にしても、オンライン上に流れるニュースやブログ、解説記事などを大量に目にする場合、もしかすると一般的な大人は文庫本1冊くらいの活字を毎日「見て」いるかもしれない。文字数としては携帯やタブレットを通じて読書(というよりも見書)をしている訳だ。あとは、じっくり考える、あるいは複数の雑多な情報を結びつける訓練をどこで実施するかである。来年の授業ではそれをもう少し取り入れるかを思案中だ。
* *
こうしたプロセスも今後はAIにより行われる可能性が高いかもしれませんね。
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