「健康効果でコメが主役になる時代」【熊野孝文・米マーケット情報】2023年12月26日
12月19日に東京日本橋で開催された全国稲作経営研究会で、東京医科歯科大学・難治疾患研究所・未病制御学の安達貴弘准教授が「RiceAidProject」~農業から医療まで、持続可能な社会の実現~と題して1時間15分にわたって講演した。講演の中で、これまででんぷんだけの白米には健康効果はないとされてきたが、安達准教授は「コメは品種によって免疫を活性化させるものや逆に抑制するものがある」ことがわかり、それだけではなく動物実験段階では行動にも影響が出ることがわかってきており、「コメによる前未病・超早期未病の予防・治療が持続可能な長寿健康社会の実現に大きく貢献できる」と述べた。
安達准教授ははじめに自己紹介として、名古屋大学農学部で食物アレルギー(食と免疫)の研究をしていたが、免疫の基礎を学ぶためにドイツのマックスプランク研究所に留学、帰国後東京医科歯科大学・難治疾患研究所で免疫疾患の研究を行っている。これまでの研究成果としては「腸管センシングの可視化解析(2022年日本食品免疫学会賞)」「腸脳相関リアルタイム同時測定の確立」「微細な異常(前未病)から病態のモニタリングシステム」「食による正確な免疫系の評価系の確立」を上げ、これらすべてが世界初の先進的な独自の技術の開発であるとした。
2022年に「超健康コンソーシアム」を創立、産学官でFoodAidProject(RiceAidProject)を展開、共同研究やアカデミアは50以上、企業は10社以上参加、特許も申請している。
そうした研究をわかりやすく伝えるために、はじめにそもそも免疫とは何か?病気を予防するには?食べたものは腸でどうやって認識されるのか(腸管センシング)、免疫細胞の顔を見る、生体の微細な異常の検出などについてわかりやすくかみ砕いて話を進めた。
また、世界の非感染症の慢性疾病、それに対する我が国の健康・医療の戦略にも言及した。
それによると非感染性疾患でなくなる人は世界で毎年4100万人にも上り、死亡者数の74%を占める。日本では健康増進法を定め、5つの基本的な方向を示している。このうち「RiceAidProject」の取組は「生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCD悲感染症の予防)」と「栄養・食生活」に関与している。国は未病の概念を定義して、未病産業の創出や未病コンセプトの発信や普及に言及しているが、残念ながら一般にはあまり伝わっていない。未病とは「自覚症状はないが検査では異常がある状態」ですでに病気になっている早期の状態を指す。神奈川県は未病に対する政策を産官学ですでに進めている。
コメについて「食による前未病の予防・治療にコメは最適である」として、その理由を①コメの品種、産地により免疫機能が異なっている②歴史的にかつ日常的に主食として摂取しており、安全性が実証済み③長期間、大量に摂取しているので作用が弱くても効果が期待できる④薬・サプリメントなどのような飲み忘れがない、特別な費用が掛からないの―4つをあげ「コメは、非常に簡便かつ安価に未病の予防・治療ができ、高い健康効果が期待できる」とした。
コメの健康効果としては、玄米でビタミン、ミネラル、食物繊維、GABA(γ‐アミノ酪酸)による抗ストレス作用、血圧上昇抑制、ダイエット、糖尿病改善、中性脂肪抑制。γ‐オリザノールによる肥満、糖尿予防が知られている。白米はほとんどがでんぷんでエネルギー源にはなるが、これまでは免疫機能はないとされていた。しかし、食品素材の免疫制御機能を調べたところ「コメの品種により免疫細胞に及ぼす作用が異なることが分かった」。白米でも免疫細胞を活性化させる品種がある一方、免疫系に作用しない品種もある。
ゆきひかりときらら397で免疫制御機能を比較すると、ゆきひかりは免疫を負に制御、きらら397は免疫を正常に制御する働きがあることから「ゆきひかりは炎症を抑え、生活習慣病や認知症への効果が期待できる」とした。
まとめとして①食は直接免疫系に作用を及ぼし、生体の恒常性維持に食は必須(医食同源)
②免疫系の異常(炎症)によってほとんどの病気が惹起される③微細な異常(前未病・超早期未病)を標的にすれば、予防・治療の難易度が下がる④正確な食の多角的機能を理解し、健康状態、ライフステージ、特性を考慮した食の摂取が必要(PrecisionFood)⑤白米でも品種により免疫系への効果がかなり異なっている⑥コメによる前未病・超早期未病の予防・治療が持続可能な長寿健康社会の実現に大きく貢献できる。
終わりに生産者から「コメから免疫効果の成分を取り出すことが出来るのか?」と問われたのに対して安達准教授は「2、3年後には出来るだろう」と答えた。
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