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国益仮面を引きはがせ【小松泰信・地方の眼力】2023年12月27日

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政府は12月22日、2024年度予算案を閣議決定。一般会計の総額は112兆717億円で、23年度当初予算から2兆3095億円減り、12年ぶりに前年を下回った。それでも、過去最大だった23年度に次ぐ規模。

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2兆2686億円のどこがめでたい

日本農業新聞(12月23日付)によれば、農林水産関係費は3億円増の2兆2686億円。わずかだが、4年ぶりの増加。内訳は、農業が1兆7645億円(前年度比67億円増)、林業が3142億円(前年度比56億円減)、水産業が1899億円(前年度比9億円減)。坂本哲志農水相は、「農業の改革元年として、ふさわしい予算を確保することができた」と会見で語った。これに対し、同紙同日の論説は、「転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金などは減額した」「財務省が収入保険制度など(中略)に関わる予算の削減を求めている」「『デジタル行財政改革会議』は基金の見直しを提言した」などをあげ、「ふさわしい内容となっているのか、国会で審議を尽くすべきだ」と、注文を付けている。さらに、農林水産関係予算が、1982年の3兆7010億円をピークに減少。ここ10年は2兆円台前半で推移し、微減傾向が続いていることから、「離農が止まらない現状は、今の経営安定対策では不十分なことの証左だとの指摘もある」とする。

農政活動の成果にご満足ですか

2023年3月29日に開催された衆議院農林水産委員会での篠原孝議員(立憲民主党)の資料「一般会計予算に占める農林水産予算の推移」は、第1次産業の病根が根深い所にあることを教えている。23年度の国家予算は1970年の14.4倍。防衛関係(防衛省と防衛力強化資金の計)は17.9倍。ところが、農水省の予算は2.3倍でしかない。この国の政治が長きにわたり、どれだけ第1次産業を軽視してきたかがわかる。70年度の農水省予算は9177億円で総予算の11.54%を占めるとともに、防衛予算5695億円を上回っていた。23年度の農水省予算は20937億円で総予算の1.83%。まともな予算付けもなく、衰退していく産業を見殺しにする政治の姿がそこにある。
そんな政治を相手に、JAグループはこの間、莫大なカネ、ヒト、ジカンを費やして農政活動をやってきた。その成果がこのザマ。頑張ってきたみなさん、これでご満足ですか。食料生産に関わっているからといって、「ショセンセイ」の食い物にされていては洒落にならない。パーティー好きの面々ゆえ、くれぐれもご用心。エッ、もう手遅れ?!

この国を破壊する「防衛バブル」

その一方で、潤沢な防衛予算は防衛バブルをまき散らす。西日本新聞は、戦後日本の安全保障政策を根本から変えた安保関連3文書の改定から1年が経過した今月、九州・沖縄の防衛力強化の動き、すなわち「要塞化」の現状を伝えている。
同紙(12月22日付)によれば、鹿児島県の種子島では、12キロ西にある馬毛島(まげしま・無人島)で今年1月から航空自衛隊の大規模基地建設が始まり、作業員が押し寄せるようになったことを契機に、日当が高騰しているとのこと。「景気は良いね」とは、居酒屋の店主。「娯楽は少ないけど、給料が高いから文句はないよ」とは、男性作業員。市も、在日米軍の再編に協力した自治体に支給される「再編交付金」によって、小中学校の給食無償化を実現。「種子島は非常に潤っている。基地建設は経済効果の裾野が広い」とは、市の商工会長。
バブルで表情が明るい人もいれば、表情を曇らす人もいる。
島中部に位置する中種子町の農業法人では、従業員が好条件の基地工事に移った。法人の代表は、「島の賃金水準を無視して人をかき集めるのはやめてほしい」と訴える。観光産業でも、ホテルやレンタカー不足で旅行会社がツアーを組めない事態が発生。漁業では、漁師が工事関係者の海上タクシーに注力し、地魚の出荷量が減っているとのこと。すでにバブルが弾け、島民が分断されている。

机上の「国民保護」では守れない

さらに同紙(12月24日付)は、台湾有事における住民の避難問題を取り上げている。
政府は、攻撃が切迫した場合、先島諸島の全住民と観光客ら12万人を九州と山口の8県に避難させる方針だが、沖縄県の想定では、避難完了に最低でも6日を要し、お年寄りなど要支援者の対応は未定。活用が見込まれる航空会社は取材に「武力攻撃など、安全に支障を来す恐れがあれば運航は困難」と回答。
避難住民を受け入れる8県側の準備も低調。
「(政府の説明は)今の段階ではない」「(受け入れ計画の策定作業は)まだ具体的にはない」(福岡県知事)。「調整中」(熊本県)などがほとんど。政府は熊本県八代市の計画作りを先行させ、モデルにする意向だが、市の担当者は「聞いていない。なぜ最初が八代なのかも分からない」と困惑しているとのこと。
「今の時代に『疎開』が起こり、しかも福岡に来るとは。知っている人はいないのでは」「考えたことがないから、受け入れ可能かどうか想像もつかない」(福岡市博多区のビジネスホテル従業員)。
1944年8月、「対馬丸」で沖縄から長崎に向かう途中に撃沈され、自らは救助されたが母と姉を失った那覇市の男性は、「攻撃が切羽詰まっているのに、海を越えた避難は無理」と断言したうえで、「悲劇を繰り返さないためには、外交などで有事を避ける努力が何よりも大切だ」と語る。重く受け止めるべき至言だが、首相の耳に念仏。

国益の仮面をかぶった亡者たち

ブッシュ;「自分は再選されることに何ら疑いは持っていない」「本国で大変な圧力に直面している。自分が求めているのは最善の数字だ。是非自分を助けて欲しい」と、米製自動車部品の購入拡大の懇願。
宮沢;「あなたが成功することは私が成功するために必要である」と述べ、要求を受け入れた。
これは、NHK「おはよう日本」(12月21日7時台)が伝えた、1992年1月に東京で行われた、時の宮沢総理大臣とブッシュ大統領による首脳会談での一コマ。食料を生産しつつ多面的機能を創出する、掛け替えの無い第1次産業の凋落や、台湾有事を口実とした「狙われる国づくり」の背後で、国益という仮面をかぶった私益の亡者たちが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していることを示唆する内容。私益亡者に苦しめられるのはまっぴらごめん。亡者には冥土が一番似合っている。

「地方の眼力」なめんなよ

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