台湾有事より能登有事【小松泰信・地方の眼力】2024年1月10日
悪夢の三が日。お亡くなりになった方々にはお悔やみ申し上げます。被災された方々にはお見舞い申し上げます。
少々へこんでいます
「私の家は茶碗が二個ほど割れただけ。土蔵の中に積んであったお米が崩れ、16袋が破損しましたが、ほぼ回収しました。近隣の屋根瓦が落ちたり、灯籠が倒れたり、道路が崩れて通行止めになったり。でも断水は1日だけだったし、奥能登に比べれば大したことありませんでした。時間がたつにつれて被害の大きさ、深刻さが判明して、少々へこんでいます」とは、石川県津幡町在住の知人からのメール。奥能登とは、能登半島の最北部に位置する珠洲市、輪島市、能登町、穴水町を指す。
1989年4月から8年間、教員として石川県農業短期大学(現石川県立大学)に勤務し、能登半島には仕事やレジャーで何度も訪れた。ゆえに、当コラムも少々へこんでいます。昨年11月には同窓会も開かれ、数十年ぶりに教え子たちと再会。彼ら彼女らの多くが、被災しながら災害復旧に関わっているはず。健康に留意しながら、職責をまっとうされることを祈るばかり。
復旧・復興は迅速に進むんだよね
輪島朝市の変わり果てた姿は、戦禍に痛めつけられているガザ地区やウクライナと重なった。
時事ドットコムニュース(2023年6月19日)は、渡辺博道復興相が6月19日、ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相と会談し、ウクライナの復興支援に関する覚書を締結したことを伝えた。東日本大震災の発生から12年がたち、渡辺氏は「震災復興の知見は、ウクライナの復興にも大きく寄与する」と述べたそうだ。被災者の住宅再建やインフラ施設の復旧などを念頭に、震災の被災から学んだ教訓や知識、経験の共有を確認し、継続的に連絡を取るための窓口を設置するなど、協力の枠組みをつくるとのこと。
復興支援と言っても、今だ戦火は収まっていない。停戦への貢献が先だろう。気が早いことこの上ない。
それはさておき、震災の被災から学んだ教訓、知識、経験が豊富であれば、能登半島地震からの復旧、復興は迅速に進むと考えて良いはず。できなきゃ、「アンダーコントロール」レベルの世界に向けた大ウソとなる。
まさに能登有事
北國新聞(1月10日付)によれば、9日時点で、珠洲市で災害関連死の6人を含む21人、輪島市11人、穴水町2人の死亡が新たに確認された。安否不明者は珠洲市15人、七尾市1人。輪島市が8日午後の281人から86人となり、大幅に減少した。輪島市は前日の公表後、安否の連絡が相当数寄せられたためとしている。8市7町の避難所404カ所に2万6158人が身を寄せる。避難所では新型コロナやインフルエンザの感染拡大が懸念され、低体温症も問題となっている。輪島、珠洲、能登3市町での孤立状態の被災者は3123人。断水は12市町の約5万9千戸。七尾、輪島、志賀、能登、珠洲、穴水の6市町はほぼ全域で水が出ない。奥能登を中心に約1万5千戸が停電。まさに能登有事である。
熊本に学べ
西日本新聞(1月10日付)の社説は、「石川県による安否不明者リストの随時公表は特筆すべきだ」と評価している。それを見た人から寄せられる当人の安否情報が救助活動の無駄を省き、救援を加速させる可能性があるからだ。
また、「自宅再建など復旧・復興まで数年以上の長い道のりが続く」ことから、「高齢者を中心に十分なケアを施し、孤独死などを防がねばならない」とする。そのために、熊本県を襲った地震(2016年)や豪雨(20年)で得た知見を役立てることをすすめている。
そして、「希望する長期避難者の受け入れ態勢を、前例にとらわれることなく、九州でも早急に整えたい」と提起する。
なお同日同紙は、福岡市が9日、能登半島地震の被災者が市立小中学校、特別支援学校への転校を希望する場合、住民票を移さなくても受け入れる対応を決めたことを伝えている。市によると、同日時点で被災地から児童1人が市内の小学校へ既に転入したとのこと。学校で使う教科書は無償提供。保育施設や幼稚園も住民票の異動なしで利用可能。妊婦や乳幼児に対しては福岡市民と同様の健診を行う。希望者には衣類や家具のリユース品を提供。
地震被害想定に問題あり
愛媛新聞(1月10日付)の社説は、重大な問題点を指摘している。それは、石川県策定の地震被害想定が26年前の1998年に公表して以降、見直されていなかったからだ。さらに想定内容に関して、「『災害度は低い』とし、死者7人、建物全壊120棟、避難者2781人と今回の被害に遠く及ばない。市町の防災計画もこの想定を基に作られており、被害の大きかった輪島市は備蓄物資を初日に全て吐き出す事態となった」ことを伝えている。「半島付近では2007年にも最大震度6強を観測。18年ごろから地震が増加傾向にあり、専門家から再三指摘され、昨年見直しに着手したばかりだった。東日本大震災や熊本地震などを受け、機会はあったはずだ。行政の危機意識の甘さが批判されても仕方あるまい」と指弾する。
ひるがえって、「愛媛でも近い将来に、南海トラフ巨大地震の発生が予想される。県は13年に発表した被害想定に基づき、住宅耐震化促進や避難意識向上などに取り組む。各市町と連携し、あらゆる事態を想定した対策を常に更新していかなければならない」とする。
岸田首相支持率回復の秘策
政府は9日の閣議で、能登半島地震の被災地への物資支援のため、2023年度予算の予備費から47億4千万円を支出することを決定。また、復旧・復興対策に備えるため、新年度当初予算案の予備費を今の5千億円から積み増す方針とのこと。
岸田文雄首相は「プッシュ型支援を加速させるため迅速に執行し、被災地の状況改善に充ててほしい」と述べたそうだ。
支持率低迷の岸田首相にふたつの秘策を授けよう。ひとつは、政治不信をまき散らす自民党が「カネ」と縁を切る証しとして、復旧・復興のために2023年の政党交付金159億1千万円を返納し、かつ政治不信が解消するまで受け取らないこと。もうひとつは、大阪万博と辺野古基地建設を中止し、自衛隊員や建設関係業者などを被災地に投入すること。
このふたつができたら、V字回復間違いなし。だって、台湾有事は幻想、能登有事は現実。
「地方の眼力」なめんなよ
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