(366)卒業研究のプロセス【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年1月12日
勤務先の大学では、卒業研究が最終段階の一歩手前に来ています。春から取り組んできたテーマを最終的な形にする最後の詰めが今後2週間です。
以下はあくまで筆者の研究室の例である。
学生達は3年の春から夏にかけて研究室を選択し、ここで最初の試練に直面する。研究室の中には教員が既に研究中の内容で複数のテーマを準備しており、その中から学生達に選んでもらう形がある。これに対し、希望を聞きながら最終的な卒論テーマを決める場合もある。どちらが良いとは一概には言えないが、私の場合は完全に後者である。選択の自由がある一方、自分でテーマを見つけられない場合には「長い雑談」が必要となる。基本は自分で決めて納得した上で取り組んで頂くことが大前提である。
配属方法は様々であり、一概には言えない。単純に成績による大学もあれば、教員が選抜をする大学もあるし、学生達の話し合いによるところもある。私の学類は学生達が話し合ってきめている。これは社会に出て物事を決める時の良い疑似体験にもなる。
3年秋からは研究室のンバーとして指導(いわゆるゼミ)が始まる。基本は週に1度、専門基礎力、つまり専門書の読解力とまとめ力をつけてもらう。ここでは、それなりに厚い教科書を毎週読む。毎回20頁程度であり、担当学生がレジメを作成し、最初に15~20分程度の説明を実施し、その後は補足説明や意見交換である。
ゼミが何とか形になる頃3年が終了する。現実には年明けからは就活だ。授業運営面で最も苦労するのは4年前期である。就活と卒業研究のテーマの絞り込みが同時並行で実施しなければならない。社会科学系の場合、植物の生育時期などのような制約条件が無いため、基本は5月の連休明けくらいまでに各学生とテーマを決めている。
6~7月は、決めたテーマが研究になりえるか否かの基礎調査の時期だ。先行研究の確認、あるいは単純に「これをやりたい」という印象で決めたものを、より具体的に研究対象に絞り込む段階である。かつては大量の先行研究を探しながら進めたものだが、最近はデータベースを用いつつ学生達は結構効率的に実施している。余り手を抜かないように、データベースに載らないような切り口を示唆するのも教員の仕事になる。
ゼミの夏休み中の課題は、決めたテーマに関係する企業や組織にできれば2回、最低1回はヒアリング調査を実施すること、あとは自由である。実際に外でヒアリング調査を実施すると、自分が何を理解し何を知らないかを学生達は自覚する。
その経験を踏まえ、10月には所属学類(学科)での中間発表を迎える。大人数を前にした発表と同時に同級生の進度・内容との「横の比較」を自覚する点で結構重要である。これを経験すると学生達もようやく何をどう形にするかの輪郭が見えてくる。ただし、中間発表では一人当たりの時間が限られているため、ほぼ1か月後に一人当たり20~40分程度のじっくりとしたゼミ独自の発表会を実施している。ここで最終的な卒論の形を個別に整えていく。
こうしたプロセスを経て、年末までにドラフトの提出を(一応)お願いしている。提出されたドラフトを年末年始で添削し、年が上げたら一気に書き上げる訳だ。実際にはドラフトが間に合わなかったり、体調を崩したり、1月に調査がずれ込むなど、様々な予想外のことが起こる。それでも共通の提出締切りは1月末のため、何とか仕上げるしかない。
この頃になると、それまでは各自バラバラに進めていた研究を、うまくまとめるためにはゼミの仲間との共同作業が意外に重要だということを頭ではなく身体として理解するようになることも多い。卒業研究の実質は1年をかけたプロジェクトという訳だ。
このチームで、もう一回プロジェクトをやると数段階レベルの高い成果を出せるだろうなと思うタイミングが毎年、一瞬だけ経験できるのは指導教員の楽しみでもある。それが感じられたら、その年度の仕事はほぼ終了、すぐに新たな学年が始まる。
* *
さて、今年の卒業研究、最後にどのような作品が出来上がるか、楽しみです。
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