「裏金」身に付かず【小松泰信・地方の眼力】2024年1月24日
総務省は1月17日、9政党が2024年の政党交付金を申請したと発表した。国民1人あたり250円にあたる総額3155億3600万円が交付されることになる。160億5300円が自民党に交付される予定。常識があれば、受け取れませんがね。
安倍派幹部は立件されず
毎日新聞(1月20日付)は1面で、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件で、パーティー券収入のノルマ超過分に関する収支を政治資金収支報告書に記載しなかったとして東京地検特捜部が1月19日に、清和政策研究会(安倍派)と志帥会(二階派)、宏池会(岸田派)の会計責任者ら3人を政治資金規正法違反(虚偽記載)で在宅・略式起訴したことを報じた。安倍派の幹部議員7人については、会計責任者との共謀が認められないとして立件が見送られた。
幹部こそ切除されるべき患部
新聞各紙は、1月20日付の社説でこの問題を取り上げている。
西日本新聞は、「裏金づくりに幹部の関与がなかったとは到底思えない。議員がパーティー券の販売ノルマを超えた額を派閥から受け取る際、政治資金収支報告書に記載しないように派閥から言われた、との証言が複数出ている」として、「派閥幹部の刑事罰を問わない捜査結果に、国民はとても納得できまい」とする。「捜査が始まって以来、党内で裏金づくりの実態を調査せず、誰も説明責任を果たさないのは異様だ。このまま再発防止策を打ち出し、自民党が刷新できると考えているなら国民を愚弄している」と、怒りは収まらない。
「今回の捜査で、政治資金規正法の不備が改めて浮き彫りになった」として、罰則の強化、会計責任者が有罪になれば政治家にも刑事責任が及ぶ連座制、収支を透明にする措置をあげ、政治資金規正法の早急な改正を与野党に求めている。
信濃毎日新聞は、安倍派の会計責任者が「派内の実務を取り仕切る事務総長の経験者ら幹部議員の指示や了承なしに巨額の裏金づくりを続けていたとは到底思えない」とする。さらに、「22年4月には、会長だった安倍氏の意向を受け、還流の取りやめが決まった。ところが、一部議員の反発で、安倍氏の死後に、幹部らの協議を経て撤回している」ことからも、「幹部議員らが違法性を知りながら還流の継続を認めていた疑いは残る」とする。さらに、「裏金をプールしたり会食に使ったりすると、課税対象の『雑所得』とみなされる可能性があり、脱税の容疑も視野に入る」ことから、検察に対して捜査の継続を求めている。
秋田魁新報は、根本的な解決のために、裏金づくりの責任の所在と使途などの徹底究明を求めるとともに、その結果を踏まえ、連座制導入や企業・団体献金の全面禁止などの厳しい対策を検討していく必要性を訴えている。
中国新聞は、「1千万円を超える裏金を得ていた議員は少なくない。民間なら所得隠しに当たる行為」とし、「これでおとがめなしとなれば、政治資金の非課税特権の悪用」と指弾する。
東京新聞も、安倍派議員の大半が裏金を受領し、加えて「派閥に入金しない『中抜き』もあった」ことから、「横領に等しい。継続性、悪質性から派閥幹部を含め、受領額が4千万円以下でも幅広く処罰すべき」とする。さらに、「仮に政治資金という認識がない裏金ならば、個人所得として税務上の追及が必要」とする。
沖縄タイムスは、「もう『捜査中』を言い訳にはできない。裏金問題に関わった政治家には、今こそ全てを説明してもらいたい」とする。岸田首相に対しては、「党総裁として、説明責任を自ら全うし、派閥の幹部にも説明を指示すべきだ。首相の責任は極めて重大であり、それができないなら、総辞職するしかない」と迫る。
岡山県民はどう思う
山陽新聞デジタル(1月19日)は、安倍派に所属する石井正弘参院議員(岡山選挙区)が、パーティー券の販売ノルマ超過分として派閥から現金を受け取っていたことを報じた。政治資金収支報告書に記載しておらず、具体的な金額は「精査中」とのこと。派閥から還流を受けたのは入会した2015年から22年までの8年間で、パーティー券の販売や処理は秘書に任せ、自身は一連の問題発覚後に初めて報告を受けたとのこと。秘書は当初から違法性を認識し、派閥側に返還しようとしたが断り切れなかったそうだ。現金は全額を専用の口座に保管し、一切手を付けていないらしい。
この人、元岡山県知事。違法性を認識していた秘書が、「どうしましょう」と相談しないわけがない。バカも休み休み言え。
そう言えば、NHK岡山NEWS WEB(2023年12月14日)は、小野田紀美議員(岡山選挙区)が代表を務める自民党の支部が、派閥(茂木派)から受け取った200万円の寄付を、政治資金収支報告書に記載していなかったことを報じている。支部は「事務的なミスで記載漏れがあり、直ちに訂正する」とコメント。
清き一票をこのふたりに投じ「良識の府」に送り出した岡山県民よ、何思う。
被害者である国民がすべきこと
毎日新聞(1月18日付東京夕刊)で、五十嵐紀男氏(元東京地検特捜部長)は、高い理想を掲げながら、規制が緩い政治資金規正法を「羊頭狗肉のザル法だ」と斬り捨て、「会計責任者ら事務方のみが責任を負うのではなく、とにかく議員が責任を逃れないようにすべきです。カネを使っているのは政治家本人なのにのうのうとさせるような法律はおかしい」と訴える。法の抜本的見直しを求めるとともに、「政治家中心ではなく、社会の各界から有識者を集めて検討すべきです」と注文を付ける。そして、政治資金を巡る事件や贈収賄は、国民生活に直結する政治の基本となる透明性や公平性をゆがめることから、「被害者は全ての国民なんです」と重い言葉で締めている。
自民党裏金事件を東京地方検察庁に告発し、一躍時の人となった上脇博之氏(神戸学院大教授)は、西日本新聞(1月24日付)で、「幹部の責任を問わないのは病気の原因を治療しないまま放置するのと同じ」「百歩譲って秘書頼みだったとしても、自らが無能だと表明したようなもの」と、切れ味鋭いコメント。このような事件の再発防止策を問われて、「パーティーの全面禁止。政党が議員個人に支出し、使途の報告義務がない政策活動費も廃止。収支報告書は簡単にチェックできるシステムを導入」「衆参とも選挙を完全比例代表にすれば、1人の不祥事で所属政党の支持が下がり、その党の他の候補も"道連れ"を被る」と回答。
同氏は、間違いなく政治資金規正法改正の検討会に参画すべき有識者のひとりである。
五十嵐氏から、「被害者は全ての国民なんです」と教えられたわれわれ国民は、主権者であることを自覚し、加害者たる政治屋集団とそれが作り上げてきた政治体制に断固たる姿勢で挑まねばならない。さもなくば、永遠に被害者のままである。
「地方の眼力」なめんなよ
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