トヨダとキシダ【小松泰信・地方の眼力】2024年1月31日
1月30日、ふたつの不正組織のトップが口を開いた。ひとりはトヨタ自動車代表取締役会長豊田章男(とよだ・あきお)氏。もうひとりが自由民主党総裁岸田文雄氏。
悲鳴を上げる現場を見ざる、聞かざる
トヨタ自動車が1月30日に発表した2023年のグループ世界販売実績は、前年比7.2%増の約1123万台。過去最高を更新するとともに、4年連続で世界一。しかしこの世界一が、グループ企業で行われていた「不正」で得たものだとすれば状況は暗転する。現時点で明らかになっている不正は、次の通りである。
日野自動車は、トラックやバスの排ガスや燃費の検査データに不正。ダイハツ工業は、自動車の安全性を確認する試験で64車種に不正。豊田自動織機は、自動車用3機種を含むエンジン10機種の性能試験で不正。
毎日新聞 (1月31日付)は、不正が起きた3社の第三者調査委員会の報告書から、「いずれも短期開発やコスト削減が優先され、現場にプレッシャーがかかる中でコンプライアンス(法令順守)意識が欠如していたことが明らかになった」とする。そして、そのプレッシャーが、「販売台数世界トップの自動車メーカーへと成長するトヨタの戦略と無縁ではなかった」と指摘する。
記事は最後に、「トヨタの期待に応えようと身の丈に合わない開発を進め、追い込まれる現場――。だが、管理職は現場を見ず、聞く耳を持たなかった」と総括する。
豊田氏は、会見で「主権を現場に戻したい」と繰り返し、グループの責任者として「創業の原点」をグループ各社に浸透させながら、「グループの変革をリードする」と宣言した。不正を起こす企業風土を作り上げ、かつ生じた不正を見抜けなかった人に「企業風土の刷新」はリードできない、させてはいけない。
こころ被災地にあらず
「政治の信頼回復に向けて、私自身が先頭に立って......」と、いつも心に伝わらない言葉を吐き続ける岸田氏もしかりである。氏の首相施政方針演説において、とくに気になったのは次の2項目。
ひとつは、能登半島地震についてである。「被災地での所感」として、「過去の災害対応に比べて、新しい取り組み」がいくつも生まれていることを語っている。
たとえば、「道路が寸断され、空港も使えない中で、『新たな官民連携』による一気通貫の物流システムが動き出していました」「断水していても使える温水シャワーが避難者の疲れを癒やし、活躍しています」「停電・断水でも使用可能なトイレトレーラーも全国から届けられました」「本格的なドローンによる災害対応が行われています」等々。
これらをウソとは言わない。問題は、それらが被災地や被災者のどれだけをカバーしているのかということである。さらに、それらでは到底カバーできない困難な状況が、毎日報道されていることをご存じないのか。怒りを込めて問いたい。被災地、被災者のことより、「裏金」疑惑で崩れかけている足元が気になり、「こころ被災地にあらず」なのだろう。ならばとっとと下野しろ。
北海道新聞(1月31日付)の社説は、「地元では対応遅れも指摘されている。政府の初動などについて国会での検証が必要だ。北陸電力志賀原発ではトラブルが相次いだ。原発政策の見通しの甘さは地震での対応を見ても明らかだ。原発推進は改めるべきだ」と指摘している。
「かぐ力」はおありですか
北國新聞(1月19日付)で坂内良明氏(ばんないよしあき、同紙編集委員)は、「岸田文雄首相が14日、避難所となっている輪島中を訪れた。(中略)視察の模様を遠巻きに見ていた身として一つ、注文がある。(中略)やはり、多くの住民が使っている仮設トイレを見てほしかった。できれば、扉を開け、中をのぞいてほしかった。段差は適切か。便器、床の汚れはどうか。そして何より、どんな臭いなのか。あの臭いをかげば、ここで毎日、用を足さざるを得ない被災者の暮らしぶりが、身に染みて分かるはずである。岸田首相が売りとする『聞く力』は、もちろん大事だ。輪島中では、短い時間の中でいろんな人たちに声を掛け、話を聞いていた、とも聞く。でも、せっかく現場に来たからには、五感をフルに働かせたいところである。私は『聞く力』だけでなく『かぐ力』も大いに発揮して、取材を続けたい」と記し、暗に首相に「かぐ力」を求めている。もちろん、「かがざる」首相と分かったうえでの無い物ねだり。
地方創生どころではないのか
もうひとつが、「地方創生なくして、日本の発展はありません」で始まる地方創生。
そこで、「地方が支える農業は国の基です」と語り、農業が直面する「食料や肥料の世界的な需給変動、環境問題、国内の急激な人口減少と担い手不足」などの課題を克服し、地域の成長へとつなげていくために、「食料・農業・農村基本法」の改正に今国会で取り組むことと、「不測時の食料安全保障の強化」や「スマート農業の振興」などに関連する法案の提出を紹介している。加えて、「環境に配慮した持続可能な農林水産業および食品産業への転換を促進するとともに、国内の生産基盤の維持の観点も踏まえ、農林水産物の輸出を、より一層推進してまいります」と宣明している。
当コラム、故安倍元首相の時から言っているが、食料自給率38%の国に輸出を語る資格なし。
資格もないのに堂々と語る連中に、「農政の基本は現場にあります。現場で日々汗を流し、苦労をされている方々に寄り添い、その前向きな取り組みを後押しする農政を展開してまいります」と言われても、「寝言は寝て言え」と返すのみ。
山陽新聞(1月31日付)は、「新型コロナウイルス禍が落ち着く中、若い世代が地方から東京などへ流出する傾向が再び強まっている。企業の人手不足が進み、好待遇の採用が増えるにつれ、流出は加速する懸念が拭えない」と危機感を強め、「少子化対策や東京一極集中の是正こそが急務だ」と訴える。そして「鍵となるのは若い世代の所得向上や雇用の改善、さらに子育てしやすい環境づくりであり、国が率先して取り組まねばならない。だが、首相の演説では、一極集中是正の文言さえ盛り込まれず、本気度は感じられない」と厳しく指摘し、「国会論戦において、地方創生策が全く足りない点を厳しく追及できるか。姿勢が問われてくる」と、野党に重要な課題を提示する。
トヨタグループと自由民主党、両者の今日的地位を不正行為が支えてきたことが白日の下にさらされている。それを知った今、国民であり消費者である我々には、不正に対して凜とした姿勢で向きあうことが求められている。
「地方の眼力」なめんなよ
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