日本米総合米価を先物市場に本上場する堂島取【熊野孝文・米マーケット情報】2024年2月6日
(株)堂島取引所はコメの本上場申請に向け準備を進め、おおよその商品設計プランをまとめた。そのプランの注目点は2つあり、一つは「日本米総合米価」(仮称)とも呼べる日本国内で生産されるコメの平均価格を上場することと、もう一つは生産者や集荷業者、流通業者、需要者など当業者の利便性に最大限配慮し、現物の受け渡しが希望に沿って行えるように現物市場と先物市場の連携(現先連携)を行うシステムを構築すること。これにより価格変動のヘッジ機能が働くようにするとともに、現物の受け渡しでは買い手が希望する産地銘柄が受け渡しできるようにする。
(株)堂島取引所は2月3日までに株主に対してコメの本上場を農水省に申請すべく臨時株主総会を開催する旨を通知した。それまでにまとまったコメ本上場の商品設計プランは①現物・先物市場が連携した新しい仕組みの下で受け渡しが出来る②上場商品は「日本平均コメ価格」(仮称)③取引対象商品は国産うるち玄米1等品の全体平均価格と中米の2本立て④限月は1年先までの各偶数月(10月、12月、2月、4月、6月、8月)⑤取引単位は1枚当たり3t(50俵)⑥最終決済は金銭の授受(先物市場は値決めを行い、現物の受け渡しは指定現物市場を経由して行う)―以上6項目が基本的な方針。
②の日本平均コメ価格と言うのは、具体的な産地銘柄のコメの価格ではなく、日本で生産される各産地銘柄の平均価格を指数として上場することになる。株取引における日経平均価格をイメージしてもらえればわかりやすいが、大きく異なるのは、株式は平均価格を求める際には現株の取引が毎日行われており、そこで形成される株価で平均価格を出せるが、コメの場合はそうした市場がないので、何をもって日本米平均コメ価格とすれば良いのかが悩ましい。
そこで、そうした米価(理論的平均米価)を算出すべく指数算出要領策定委員会を立ち上げ1月29日に第一回目の会合を開催した。米価の指数取引を行うためには、取引参加者(当業者のみならず一般投資家)が納得する指数でなければならず、堂島取の商品設計委員会の会議でも議論になった。一つのたたき台として農水省は毎月全国の産地銘柄別の相対価格をマンスリーリポートで公表しており、このデータは法律に基づき当業者に報告義務があるため信頼性が高く、このデータを基に平均価格を算出すれば良いという意見が出た。ただ、実際に売り買いしている組織からは現物のスポット取引価格と公表される相対価格とはタイムラグ等で値開きがあるという指摘もあった。指数算出委員会では、過去のデータの蓄積から現在値を予測したらどうかと言う意見も出ている。AIを活用してそうした価格を予測することは出来るので、あるいはそうして算出した米価の方が指数として使いやすいかもしれない。
実はコメの指数取引と言うのは以前堂島取で検討されたことがあった。その時はデータとして量販店で販売される精米のPOSデータ価格を産地銘柄ごとに加重平均したものを指数として上場したらどうかと言うものであったが、精米価格は通常販売価格と特売価格に大きな差額があり、市中で取引される玄米価格とはリンクしないのなどの理由で日の目を見ることはなかった。玄米の取引価格をスポット的に知るには、仲介業者から取引価格を報告してもらうしかないが、第三者に取引価格を知らせるとことを明確に拒否しているところもある。また、仲介業者は自らの商売上必ずしも正確な取引価格を報告するとは限らない。
結局、堂島取が仲介業者を「現物取引指定業者」に指定してそこに資本参加して、そこから取引データの報告を求めるしかない。
農水省が主催した「コメの将来価格に関する実務者勉強会」は1月30日に最終取りまとめ案をA4判7ページに取りまとめているが、実によくコメの取引の実態を踏まえた報告書になっており、将来のコメの価格がわかる意義や取引形態としての現物先渡相対取引や先渡取引、先物取引市場の違いを分かりやすくまとめている。出色なのは「価格変動リスクを抑えるために複数のコメ取引を組み合わせて活用する事例」を示していることで、生産者や流通業者がどのように活用して来たか6事例が掲載されており、堂島取が作成したパンフレットより良くできている。コメの取引に関心を持っている人は必ず目を通して欲しい事例集である。
その報告書にはまとめとして「現物相対取引や現物市場取引に加え、予め取引価格を決めることが出来る取引形態(現物先渡相対取引、現物市場先渡取引及び先物市場取引)を組み合わせて活用することにより、生産者等が将来の価格変動に対するリスク抑制を行う場合の選択肢が広がることが期待される」と明記されている。
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