狭い国土と農林漁業【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第279回2024年2月22日
2010年の東日本大震災後、これから原発をどうするかが大きな問題となり、国民の多数は脱原発を志向するようになった。しかし財界は、日本は資源が少ない国なので原発はどうしても必要だと主張する。そして言う、原発を再開しないと電力不足、電気料金高になる、また輸出競争力もなくなる、そうなると企業は生産拠点を外国に移さざるを得なくなる、その結果日本経済は大変なことになると。
これまでも何かというとそう言って脅かしてきた。たとえば、法人税を下げないと、企業優遇措置をとらないと企業はみんな国外に出て行く、そうすれば働く場がなくなる、それでいいのか、こう国民を脅して法人優遇税制などをとらせてきた。それと同じ論理で、原発を動かさないと企業は外国に行ってしまうぞと威す。
これに対して政権政党は何も言わない。一方で「愛国心」を、君が代を国民に強要しながらである。だから企業は、国内の働く人の首を切って外国に逃げ、自分だけは生き延び、さらにもうけを増やしていくなどと平然と言う、こんな愛国心を失っている大企業には何にも言わないのである。また、電力が豊富にある国は世界でも少ない、そう簡単に国外に生産拠点を移すことはできないということも政財界・マスコミは言わない。
そして、国外に出ていかれたら大変だ、だから原発再開しかないと国民を威す。
この話の前提となっている日本は「資源小国」であるという言葉、これは明治以降繰り返し繰り返し権力側から流されてきた。そして、資源が少ないということを前提にすると、その後に続く言葉の内容がどうかは別問題として、それに納得してしまうという国民性がつくられてきた。そしてそれがさまざまな問題を引き起こしてきた。
戦前の場合は次のように言われた。日本は国土が狭い、だから資源がない、一方で人間が多すぎる、だから貧乏なのだと。それを解決するには、資源が豊富にあるにもかかわらず利用しないで放置しているアジアの諸国を開発してやって、日本に資源を、あるいは生産物をもってくるより他ない、そう言って満蒙開拓だと中国を侵略し、さらにアジアの諸国を侵略して植民地にしてきた。
この反省から、戦後の一時期こんなことが言われた。オランダやスイス、あんな小さな資源のない国で食糧を自給し、平和に生きている、これに学び農業を基礎にした豊かな平和な国をつくろうと。
ところが、1960年ころから戦前と同じことが言われるようになってきた。日本は資源がない、耕地も狭い、人口が多いと。ただ、ここからが戦前とは違う、だから石油などのエネルギーや鉱物資源、そして食糧を輸入しないわけにはいかない、そのかわりに製品の輸出もしなければならない、そのためには貿易自由化がどうしても必要だ、資源小国日本が生きていくためにはそれしかないと言う。そして自由化を進め、今まで述べてきたような農業の衰退を、またさまざまな問題を引き起こしてきた。
しかし、本当にわが国に資源はないのだろうか。まずわれわれの生存の基礎である農林漁業に関連する資源から考えてみよう。
農業の基礎である土地資源についてみれば、たしかに日本は国土が狭い(中国やアメリカ、ロシアなどに比べての話だが)。しかも傾斜地の多さから耕地にできる場所は限られており、耕地率は低い。この点からいうと資源が少ないといえる。
しかし、問題はその土地の中身だ。いくら土地が広くとも、ツンドラ地帯や砂漠地帯ではどうしようもない。いくら耕地が広くとも、寒冷乾燥地帯のように天候に恵まれなかったら、つまり土地生産性が低かったらどうしようもない。
ところがわが国の土地には豊かな太陽エネルギーが付随しており、つまり光、熱、水、季節性等に恵まれたいわゆる中耕的風土(雑草が生えて中耕除草しなければ作物が育たない風土)であり、土地の能力はきわめて高く。農業資源に恵まれている。
林業についても同様だ。モンスーン的風土であることから森林の再生力はきわめて高く、豊かな緑に恵まれ、しかも日本の地理的位置と標高差の激しさから針葉樹から広葉樹まで多様な生産が可能である。
漁業についていうならば、わが国は四つの海に囲まれ、親潮、黒潮、流氷等が流れ、海岸線は複雑に入り組んでいるきわめて豊かな海に恵まれており、多種多様の魚介類の生産が可能であり、日本沿岸は世界三大漁場の一つになっているほどである。そして日本は世界に冠たる水産国となっている。
このように日本は世界でもまれに見る豊かな生態系に、農林漁業資源に恵まれており、これでどうして日本は資源が少ないなどと言えるのだろうか。
しかもそれを生かすことのできる勤勉な人々がいるのである。
しかしそれは生かされなかった。そして農業、農村は衰退していった。さらには日本の人口が減るという事態まで予測されるようになってきた。
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