「日本中学生新聞」の願い【小松泰信・地方の眼力】2024年2月28日
2月26日15時24分、椅子と机が小刻みに揺れた。震源地は愛媛県南予、マグニチュードは、推定5.1。伊方原発がある愛媛県伊方町は震度4。私が住む岡山市は震度2だったが怖かった。能登半島地震の被災者が味わった恐怖はいかばかりか。
原発のトイレ探し
原発は「トイレのないマンション」に例えられている。原発の運転によって排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は、無害化するまで10万年かかるとされる。この危険極まりない廃棄物の最終処分場も決まらぬまま、原発を建設し稼働させてきたこと、それ自体が大問題。ちなみに、世界で最終処分場にめどをつけたのはスウェーデンとフィンランドの2カ国だけ。
核のごみの最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月13日、原発のトイレをどこにするかの選定に向け、北海道南西部の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で実施した文献調査の報告書案を、経済産業省の作業部会に提示した。それによれば、寿都町の全域と神恵内村の一部が、地面を掘り地層を調べる概要調査に進むことが可能と判断された。
未来の子孫たちの生存に禍根を残すな
北海道新聞(2月14日付)の社説は、「概要調査への道を狭めたくないNUMOをはじめ国側の狙いが透ける。活断層の懸念などが払拭されていないのに結論ありきに映る。納得できるものではない」とする。そもそも北海道には、核のごみを「受け入れ難い」とした2000年施行の核抜き条例があり、鈴木直道知事も概要調査に反対する考えを繰り返し示している。
「仕切り直しが必要」とした上で、活断層の評価に疑問を呈している。国の地震調査研究推進本部が「寿都町から渡島管内長万部町までの断層帯についてマグニチュード(M)7.3程度以上の地震を引き起こす可能性を指摘」していることや、「神恵内沖にも活断層が存在するとの指摘もある」からだ。能登半島地震が半島沖の活断層によって引き起こされたとみられることから、「NUMOは活断層を過小評価してはいないか」と迫り、「解明されていない自然のメカニズムが多々ある以上、少しでも懸念があれば、候補地から除くのが本来の調査のあり方だろう。リスクを低く見積もる姿勢は危うい」と指弾する。
さらに、「文献調査に応じれば最大20億円、概要調査に進めば最大70億円という従来の巨額交付金に加え、関係省庁による地域振興策をさらに手厚く」するという、「過疎のマチにカネでつけ込むような手法」に対して、「科学的な調査をゆがめるのではないか」と疑問を呈している。
原発推進にかじを切った岸田文雄政権に対しては、「最終処分場の見込みもないまま原発を動かして、廃棄物を増やし続けるのは無責任だと言わざるを得ない」と断じ、「10万年先の姿は想像もつかない。未来の子孫たちの生存に禍根を残すことはあってはならない」と締めている。
まずは脱原発
信濃毎日新聞(2月26日付)の社説も、「お金と引き換えに問題を地方に押し込めるやり方を続けていてよいのか。根本から考え直すべきだ」とする。そして、「地殻変動の多い日本にはそもそも適地がないとの指摘もある。地学などの専門家有志約300人は昨年、安定した場所を選ぶのは不可能との声明を出した」ことから、「真剣に打開策を探るにはまず、脱原発を決めて総量を確定し、その上で広く国民に問いかけていくべきではないか」と提言する。加えて、日本学術会議が2015年に「地上の施設で50年『暫定保管』し、その間に議論を進めるよう提案。電力各社が保管場所を確保し、それを原発再稼働の条件とすることも求めている」ことを紹介し、「いまからでも検討に値する」としている。
「交付金頼み」の立地推進策の限界
「中国電力島根原発(松江市鹿島町片句)が立地する山陰両県民にとっても、人ごとではない重い課題だ」とするのは、山陰中央新報(2月18日付)の論説。片岡春雄寿都町長が概要調査に応じるかどうか明言を避けた上で、「(文献調査を受け入れる)他の候補地が出るまでコメントは控える。国は10カ所程度、候補地が出るように努力してほしい」と要望したことや、高橋昌幸神恵内村長も「長い事業で、進むかどうかはその時々の住民の判断」と慎重な姿勢を示したことを紹介する。
文献調査から概要調査に進むにはハードルが高いことは、寿都町長も神恵内村長も承知していたはずだが、それでも文献調査に応じたのは、「人口減少や産業の衰退で財政が厳しい中、調査受け入れで得られる最大20億円の交付金が目当てだったことは容易に想像できる」とした上で、「北海道の両町村長が慎重姿勢に転じたことを含め、これまで国内の原発関連施設を建設する際に取られてきた『交付金頼み』の立地推進策の限界を露呈した格好だ」とする。
「北海道だけの問題ではない」との鈴木北海道知事の発言を受け、「島根原発を抱える山陰両県をはじめ国内全体で機運を高めなければ、『トイレのないマンション』は到底解消できない」と結んでいる。
復旧、復興は原発反対運動への恩返し
「日本中学生新聞」(第2号、2024年1月)も、原発問題を取り上げている。創刊者兼記者の川中だいじ氏は、「小学校の教科書には、原発のことはどちらかといえばメリットが多いように書かれている。(中略)東日本大震災のことはコラムで少し書かれてあるだけだった。中学校の授業では『COP(小松注;国連気候変動枠組条約締約国会議)』のことは習わない。(中略)『パリ協定』(小松注;2020年以降の気候変動問題に関する国際的枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標を設定)のことはSDGsのことを調べましょう程度」と記し、「果たしてどれだけの若者が、政府が福島第一原発事故と向き合うことがないまま、原発を推進。10年後に国内最古の関西電力高浜原発1号機に60年超の運転が適用される可能性があることを知っているのだろうか」(原文のママ)と、疑問を投げかける。
そして、「地震大国の日本にとって、原子力発電所は危険そのものだ。東日本大震災での原発事故の被害は未だ収まっていないのが証拠だ。戦争被爆国、原発事故被爆国の日本が、率先し全ての原発の停止、再生可能エネルギーや省エネルギーへの転換することが必要なのではないだろうか」(原文のママ)と提言するとともに、「政府の無責任な判断に、あきらめることなく、ぼくたち国民が安心して暮らしていけるように声を上げ続けねばならない」と訴える。
2003年12月に凍結されたのは珠洲原発計画。関西電力は珠洲市高屋町を建設予定地としていた。その直下で地震は発生した。住民らの28年に及ぶ反対運動がなかったら......。震災からの復旧、復興への取り組みは、反対運動への恩返しと心得よ。
「地方の眼力」なめんなよ
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