【JCA週報】協同組合のアイデンティティと「労働」の問題~協同組合原則改訂と2025国際協同組合年を控えて考えるべきこと(杉本 貴志)2024年3月4日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 山野徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫 日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の2023年冬号に寄稿いただいた論考です。
協同組合のアイデンティティと「労働」の問題
~協同組合原則改訂と2025国際協同組合年を控えて考えるべきこと
関西大学 教授 杉本 貴志
1. アイデンティティとルーツ
ある組織なり運動なりの本質=アイデンティティは何かを論じる場合、有効な手段のひとつが、その始原を探ってみることである。歴史をさかのぼり、それは本来どのようなものであったかを見ることで、現実と向かい合う中でいつのまにか棚上げされ、忘れられてしまった原点を再発見し、アイデンティティを新たな観点から確認することができる。
現代の社会情勢の中で協同組合に何が求められているのかを議論することと同じく、これまでの足跡の中で協同組合が何を求めて苦闘してきたのかを振り返ることもまた、協同組合のアイデンティティを再考するにあたっては重要であろう。
本稿においては、協同組合運動の長い歴史の中で、「労働」を尊重する社会をつくることこそがまさに協同組合の本来の目標であり、そうであるが故に19 世紀の協同組合の思想家・運動家・実践者は事業と運動のアイデンティティの中心に「労働」の問題を位置づけていたこと、しかしそれが20世紀において長く棚上げされ、協同組合のアイデンティティ=原則論議から姿を消していたこと、そして今その再考が21世紀の協同組合運動に対して陣営の内外から強くもとめられており、協同組合原則の改訂や2度目の国際協同組合年において、その具体化が要請されていること、を論じる。
巨額の不労所得を手にして悠々と過ごす人が一部存在するとしても、社会全体としてみれば、誰もがまともな形で働くことができることが、個人の生活とコミュニティの存続にとって、もっとも重要なことである。科学技術と生産力の飛躍的向上を経験した現在においても、19世紀以来、そのことに変わりはない。19 世紀に生まれた協同組合が、自らのアイデンティティの問題として、21 世紀にこの問題にいかに取り組むのか、国際社会が注目しているのである。
以降の論考の章立ては下記の通りです。
2.アイデンティティとルーツ
3.なぜ「労働」は原則から姿を消したのか
4.「ディーセント・ワーク」と協同組合への期待
5.二度目の協同組合年と原則改訂
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