外国産、国産米とも値上がりして苦境に立つ味噌業界【熊野孝文・米マーケット情報】2024年3月12日
能登半島地震の支援物資として味噌メーカーから現地に15万食のカップ味噌が無償で送られ、お湯を注ぐだけで簡単に温かい味噌汁が食べられるので大変喜ばれたそうである。近年、味噌製品も多様化、即席味噌やカップ味噌、さらには海外ではドレッシング用としてチューブ入り味噌も商品化されている。その味噌の主原料は大豆とコメである。コメの使用量は業界全体で約7万3000t程度になっており、価格によって国産米と外国産米を使い分けているが、現在、両方とも大幅に値上がりしており、業界ではその対策に頭を痛めている。
味噌業界の全国団体全国味噌工業協同組合連合会(略称全味連)がまとめた原料米使用状況は令和5年度(暦年ベース)は7万3018tで前年に比べ0.1%減とわずかながら減少した。平成の時代は8万tを超す使用量であったが、令和に入って減少傾向が続いている。
使用原料米の内訳は大きく分けて国産米と外国産米に分けられるが、その比率は年によって大きくブレる。平成29年、30年は国産米の価格が高かったこともあり、外国産米の使用比率が6割を超えていた。逆に国産米が安かった平成27年は国産米の使用比率が84.3%にも上った。国産米のうち使用量が最も多いのが特定米穀である。これもブレが大きく、多い年(平成27年)は4万8223tも使用していたが、少ない年(平成30年)は1万8465tにまで落ち込んでいる。これら原料米の使用比率の変動は何によって起きるかと言うとすべて"価格"である。わかりやすく言うとこれまでkg120円を基準にこれ以下であれば特定米穀をそれ以上になれば外国産米を使ってきたという構造になっている。
しかし、近年そうした購入パターンが通用しなくなっている。その一つの原因は、外国産米の価格が急激に上昇していることが上げられる。
表は味噌業界が買い受けているアメリカ産米とタイ産米の価格推移だが、アメリカ産米はカリフォルニアが干ばつで中粒種の生産量が減少したことから輸入価格が上昇、それにスライドして売却価格も値上げされたことから一時はkg250円を超える高値になった。生産量が回復して輸入価格も値下がりして、直近では164円60銭まで値下がりしたが、それでも高値水準にある。タイ産米はインドがコメの輸出制限を行ったことから長粒種の国際価格が上昇、それにスライドしてタイ産米の価格も値上がりしている。タイ産米は右肩上がりに上昇しており、国際的な穀物価格の価格水準が構造的に値上がりしているという面もある。
アメリカ産米とタイ産米の購入比率も価格動向を敏感に反映して、近年では価格の安いタイ産米の使用量が増えている。令和5年度ではアメリカ産米の使用量が3449tであったのに対してタイ産米は2万5872tになっている。全味連によるとタイ米は味噌にする場合2度蒸しする必要があり、そうした設備を持たないメーカーの中には価格が安くてもタイ産米を使えないところもあるという。今年に入ってタイ産米の落札価格が上がりkg100円を超えているが、特定米穀の価格がkg200円にまでなっているため、今後タイ産米の使用量が急激に増えるものと予想される。
国産米だけで味噌を製造しているメーカーは特定米穀の急激な値上がりは死活問題だが、代替原料米としての加工用米の使用は令和元年には1万0863tあったが、毎年のように減り続け昨年は4801tまで落ち込んでいる。これも価格が原因で、味噌メーカーが求める価格水準まで加工用米の価格が値下がりしなかったことが要因。ただ、現状は主原料米と言うべき特定米穀が加工用米並みの価格まで上昇したことにより、味噌メーカーも6年産で加工用米を契約して国産米原料にシフトするか相対的に価格の安いタイ産米を使うのか判断が問われている。
食管法時代は過剰米処理対策として「破砕米売却制度」があり、味噌や米菓、米穀粉、焼酎業界の主原料は破砕米であった。ウルグアイラウンド決着でMA米が恒常的に輸入されるようになってから外国産米が特定米穀と並んで主役になった。言い換えれば国内の伝統的コメ加工食品業界は国のコメ政策の処理機関として、捌け口になってきたようなものである。コメ業界を産業化するというのなら需要拡大の手段として米粉も良いが、こうした伝統的な日本のコメ加工食品業界が発展してコメの使用量が増えるように原料米政策を根本から変える必要があるのではないか。
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