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有機農業、生物多様性とJA【小松泰信・地方の眼力】2024年3月27日

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農水省では、「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、有機農業に地域ぐるみで取り組む産地を「オーガニックビレッジ」と名付け、その創出に取り組む市町村の支援に取り組んでいる。

komatsu_honbun.jpg福島県二本松市のオーガニックビレッジ宣言

オーガニックビレッジとは、具体的には有機農業の生産から消費まで一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取り組みを進める市町村のことである。農水省は、このような先進的なモデル地区を順次創出し、横展開を図っていく考えである。2022年度は全国で55市町村だったが、23年度は93市町村となった。30年までに200市町村に増やす目標を掲げている。
「化学肥料や農薬などを使わず、環境に優しい有機農業を地域ぐるみで推進する動きが県内で広がり始めている」とする福島民報(3月15日付)の論説は、「二本松市は、農林水産省が提唱する『オーガニックビレッジ』を宣言し、喜多方市も準備を進める。先進的なモデル地区を多数誕生させ、安全安心な本県の豊かな食材を県内外に発信するよう求めたい」と、エールを送る。
23年2月に福島県内で初めてオーガニックビレッジを宣言した二本松市の循環型農業実施計画には、「農業資材の高騰によって、慣行農法から減農薬・減化学肥料、さらに有機農業への転換を模索する動きも出てきており、有機農業をはじめとした減農薬・減化学肥料等の取組及び里山資源の活用等による環境負荷の少ない農法も含めた農業=『循環型農業』を拡大させる絶好の機会ともいえる。『みどりの食料システム戦略』に掲げる目標達成に向けて、自然と共生する環境に優しい農業でもある『循環型農業』の推進により、持続可能な農業の振興を図る必要がある」と、取り組むに至った経緯が記されている。
そして、2022年を基準として27年までの5年間に、 有機農業取組面積を25.6haから30.7haに、 有機農業取組者数を30人から50人に、市内学校給食への市内有機農産物の導入割合(重量ベース)を0%から20%に、有機コーナーを新設した店舗(累計)を0店舗から10店舗にする、といった目標を掲げている。
同紙は、福島県が研修費や有機JAS認証の取得費用を補助するなどの支援を強化していることを紹介するとともに、「有機農業は害虫対策や除草に手間がかかり、生産量が少なく販路確保が難しい」といった課題も上げたうえで、「有効な栽培法を確立、普及させ、本県農業の一層の活性化につなげるべきだ」としている。

地域生物多様性増進活動促進法案と能登半島

毎日新聞(3月5日18時25分更新)は、政府が5日、荒廃地の自然を回復させる民間の活動を認定する新制度を盛り込んだ「地域生物多様性増進活動促進法案」を閣議決定したことを伝えている。今国会で成立、25年4月の施行を目指している。生物多様性を回復させようという民間の活動を「増進活動実施計画」として認定し、民間による自然再生活動を後押しするのが狙い。対象となる活動は生態系や人の暮らしを脅かす「侵略的外来種」対策などを想定しており、環境省は認定基準を年末までに策定する。また、認定活動に対する寄付をした企業や団体に証明書を発行するなど、間接的に自然再生に貢献することを促す制度も検討することに。
環境省は23年4月、企業やNPOなど民間の取り組みで豊かな自然が守られている土地を「自然共生サイト」として認定する制度を開始し、今年度は185カ所を選定したが、再生の途上にある土地は対象外だった。
伊藤信太郎環境相は閣議後の記者会見で、法案について「現在の生物の多様性を保全するだけでなく、失われた生物多様性の回復・創出も重要になるのを踏まえた」と述べた。ちなみに、22年12月に採択された生物多様性の国際目標「昆明・モントリオール目標」では、30年までに陸と海のそれぞれ30%以上を保全し、劣化した生態系を30%以上再生させることを目指している。日本は23年3月、同じ数値目標を盛り込んだ国家戦略を閣議決定している。
北國新聞(3月22日付)の社説は、この認定制度を活用し、能登半島地震で大きな被害を受けた世界農業遺産の認定エリアなどの自然再生に取り組むことを提言している。
認定対象となる活動は、自治体がまとめ役となり「外来生物の防除や希少な動植物の保護、荒廃した複数の里山や耕作放棄地を再生するケース」などが想定されていることから、「環境意識の高い企業や民間団体を後押しする制度を生かして、地震で危機にひんする能登の自然環境の整備を後押しできないか知恵を絞りたい」と、奮起を促す。
さらに、「こうしたエリアの整備は、復興後の誘客も含めて、能登の自然の多様な価値を発信する意味で重要であろう。被災地の生活再建を軌道に乗せることが最優先で求められるが、国の認定制度を推進力にして、徐々に能登の自然環境の再生にも取り組んでいきたい」と意気込んでいる。

JAの影が薄い

オーガニックビレッジも地域生物多様性増進活動も、関係する個人や各種団体が一体となって取り組むことによって、より多くの成果をもたらす。もちろんそれは、JAにとって他人事(ひとごと)の取り組みではなく、主体的かつ積極的に関わらねばならないもののはずである。
しかし、日本農業新聞(3月27日付)の論説は、「JAは地域との関わりが少ないのではないか」(自治体関係者)、「全国の首長の中には、地元JAへの関心が低い人もいる」(小野文明氏、全国町村会経済農林部長)、「地域おこし協力隊の隊員や県・市町村の職員から、JAの話題が出たことは少ない」(椎川忍氏、地域活性化センター常任顧問(前理事長))といった声を紹介し、「近年はJAの広域合併が進み、地元自治体や組合員との距離が広がってきているとの指摘もある」と総括する。
その上で、「背景には、JA合併による支店統廃合などで地元の支店がなくなり、管内の自治体や組合員との関係性が薄れてきたことがうかがえる。求められているのは、地域振興という同じ目標に向け、JAと自治体の連携を強くし、ざっくばらんな会話ができる関係性を築くことだ」と、自治体との連携強化の必要性を説いている。加えて、「違う価値観、視点を取り入れてこそJA改革に結びつく。自治体職員や地域おこし協力隊、移住者、外国人など国籍や性、年齢を問わず、異業種と連携する」ことの重要性も強調する。
二本松市の取り組みでも、JAの影は薄い。他所でも似たような状況であろう。影が濃くなることなく、いつの間にか消え去ってしまうことを危惧するばかりである。
JAが、JA綱領の精神を体現しない限り、危惧が杞憂で終わることはない。

「地方の眼力」なめんなよ

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