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「むこう岸」へのワタシ舟【小松泰信・地方の眼力】2024年5月8日

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すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。(生活保護法第一章第二条)

komatsu_honbun.jpg「むこう岸」は訴える

 この条文、報道以外では気を吐くNHKによる特集ドラマ「むこう岸」(2024年5月6日放送)で知った。
 有名私立中学の勉強について行けず、公立中学校に転校してきた少年(山之内)が、病気の母と幼い妹の三人で暮らす生活保護世帯のヤングケアラーである少女(佐野)と出会い、未来への希望を互いに見出してゆく......。安田夏菜氏による小説『むこう岸』をドラマ化したもの。
 なりたかった看護師への夢をあきらめかけていた佐野を見かねて、社会の「理不尽」を憤った山之内が図書館で手にしたのが「生活保護手帳」。塾講師(湯川、ケースワーカー経験者)から、「世帯分離」によって、子ども世代(佐野)が要保護対象から外れることで、高校卒業後の進学の道が開けることを教えてもらう。早速、佐野に「世帯分離」から展望が開けることを伝える。その時、「生活保護手帳」の中で心に残った文章として紹介したのが冒頭の条文。そして「生活保護を受けることは決してずるくない。権利なんだ。これを読んだ時、僕は人間を信じてもいいような気がしたんだ」と、切々と語る。
 「人間を信じてもいい? 何を信じるの? 所詮、本の中の話でしょ。現実とは違うんだよ」と取り合わぬ佐野だが、山之内の配慮で湯川に会う。
「申し訳ないとか、恥ずかしいとか、みんな言うの。でもね、情けなかろうが何だろうが、助けが必要な時は必要なの。嘆いても責めても人は変われない。もし変われるとしたら、誰かと関わりを持った時だけ。それができなくて、泥沼にはまる人をいっぱい見てきた。あなたはどうなりたい?(中略)あなたは施しを受けてるわけじゃない。社会から投資されてるんだよ」との湯川の言葉に背中を押されて、やっとスタート地点に立つことに。
 そして、「山之内和真。お前みたいなやつがこの世にいてくれないと困るんだよ。だから...逃げんな」と、エールを送る。

「北海道ケアラーズ」の発足

 ヤングケアラーへの支援が求められるなか、今年、民間の全道組織「北海道ケアラーズ」が発足したことを伝えるのは北海道新聞(5月5日付け)の社説。今後は、各地に当事者の交流の場を設ける計画。中心メンバーの加藤高一郎氏は、介護職の傍ら、介護に追われる子どもたちと交流してきた方。これからは北海道のヤングケアラー相談窓口の運営も委託されて24時間体制で対応するとのこと。
 氏によれば、「子どもたちは『かわいそう』と見られることを嫌がる」ので、「助けてあげるという姿勢ではなく、聞き役に徹している」そうだ。友達が介護で疲れていることを知り、「僕はどうしたらいいですか」と聞いてきた山之内和真のような小学生もいたことを知り、嬉しくなった次第。
 社説子も、「そんな子どもの力も借り、問題解決を図ることもできるはずだ。共に社会で暮らすパートナーだという関係性を大切にしたい」で締めている。

「子どもの権利」を守るためにも経済格差の解消

 「コロナ禍が直撃した家計に物価高騰が拍車を掛け、子どもたちを巡る状況は厳しさを増している」と伝えるのは琉球新報(5月5日付)の社説。
 2022年度の沖縄子ども調査から、19年度の調査と比べて困窮層の割合が5.9ポイント上昇し、経済的に厳しい世帯が増え、「低所得層の生徒ほどきょうだいの世話や家族の介護・看病をする時間が長く、保護者とともに抑うつ傾向が高かった」ことと、「ヤングケアラーと貧困が重なる時、『子どもの権利』が大きく侵害される可能性がある」としたことを報じている。
 今国会で、児童手当の拡充を柱とした少子化対策関連法案が審議されていることを取り上げ、「経済格差を解消しなければ少子化対策も意味をなさない。子育て支援、所得の改善、物価高対策に大胆に財源を充てることだ。歯止めなく膨張する防衛費を見直せば、国民に新たな負担を求めることなく財源を捻出できる」と正鵠を射る。
 総務省の調査では、6歳未満の子どもがいる共働き世帯では女性の育児時間が1日に3時間24分、男性は1時間3分であることから、「子育ての負担軽減には、育児は女性の役割という固定観念が根強くあることも改めないといけない」とする。
 加えて、経済力が乏しい若年世代が孤立すると、家庭内のドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待、育児放棄につながるリスクが高まることや、予期せぬ妊娠で学業を諦め、貧困の連鎖を招いてしまうことなどから、「若年妊産婦が社会の中で孤立しないための支援」の重要性を訴える。

目指すべきは、子どもを産み育てたいという社会づくり

 「被災地の空を、こいのぼりが泳いでいる」で始まるのは北國新聞(5月5日付)の社説。「焼け跡は4カ月が過ぎても手つかずのまま。黒茶色になった現場で、こいのぼりの赤や青はひときわ鮮やかに見える」の文字が涙でにじむ。「こいのぼりは復興の願い」と記されているが、当コラムには「早く助けに〝コイ〟」のサインに思えてならない。
 「こどもの日」を迎え、「未来を生きる子どもたちに、どんな地域を残せるか。そのことがあらためて問われている気がする」として、「何よりもまず、学びの場をできるだけ早く日常に近づける必要がある。(中略)抱いている夢を子どもたちが諦めないよう、地域を挙げて学びを支える手立てを考えたい」と訴える。
 世界に目を向け、「イスラエルの攻撃を受けるパレスチナ自治区ガザは人口の半分を子どもが占め、死者は1万2千人を超える」ことから、「国際社会で一刻も早く停戦を実現したい」と、訴えるのは中国新聞(5月5日付)の社説。
 「子どもは社会の宝であり、未来そのもの」「子どもを増やすのは社会や経済を維持するためではない」「子どもを持ちたい人が安心して子どもをもうけ、育てられる世の中こそが、国民の幸福につながるはず」として、「子どもを育てたいと思える社会を築くという点では、世界平和の実現や自然環境の改善なども、広い意味で少子化対策になるだろう」と結ぶ。まったく同感。
 とは言うものの、子どもたちの将来に思いをはせる時、残念ながら、その将来は決して明るいものではない。
 その責任は子どもにはない。責任はオトナにある。ひとりでも多くの子どもたちに希望ある将来を渡すために吠え続ける。

 「地方の眼力」なめんなよ

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