【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「保守」とは何だろうか2024年5月10日
保守とは、日本人が古来から大事にしてきた相互扶助的な共同体の力によって命の源たる食料を守り、地域コミュニティや伝統文化、資源・環境、国土・国境を守り、いざというときに国民の命を守ることではないか。
不測の事態に国民の命を守るのを「国防」と言うならば、農業・農村を守ることこそが一番の国防ではないだろうか。今、それが蔑ろにされている。それを破壊し、外国におもねり、一部のグローバル企業のもうけを手助けし、自身の地位にしがみつくことばかりが目立つ。「外に媚び、内を脅かす者は、天下の賊である」と吉田松陰も言ったが、そのとおりだ。
「新自由主義」経済学とは、言い換えると、「今だけ、金だけ、自分だけ」の経済学であり、これは日本社会の本来の姿から最もかけ離れた対極に位置づけられるが、未だに、日本は、この流れを強化し続けている。
今、農山漁村の破壊がさらに推し進められ、日本社会の崩壊の足音が高まってきている。農業・農村の崩壊を前提にしているのだ。農業就業人口が急速に減少し、もうすぐ農家はさらに潰れ、農業・農村は崩壊する。だから、わずかに残る人が「成長産業化」するか、企業などの参入で儲かる人だけ儲ければいいではないかと。みなが潰れないように支える政策を強化すれば事態は変えられるという発想はない。
こんなことを続けたら、IT大手企業らが構想しているような無人の巨大なデジタル農業がポツリと残ったとしても、日本も世界も、多くの農漁村地域が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には、超過密化した東京などの拠点都市で、餓死者が出て、疫病が蔓延するような歪(いびつ)な国になることは必定である。
世界が評価する共同体的な資源管理を維持し、豊かな地域コミュニティを発展させることこそが日本の農林水産業の持続と日本の独立のために不可欠ではないだろうか。日本の農林水産業を守ることは、①安全で美味しい食料の提供だけでなく、②地域コミュニティ・国土・資源・国境の維持という両面で国民の命を守る安全保障=「国防」の要である。それを売り渡すことに加担するのは保守の風上にも置けない。
一部の人達だけの利益のために動き、それによって自分の目先の利益と地位を守る生き方を何歳になっても続けることが、本当に幸せな人生だろうか。日本社会のよき伝統を大事にして次の子ども達の世代に引き継ぐことを放棄して、古きよきものを一部の利益のために差し出し、壊し、日本を売り飛ばし、老人がいつまでも地位と利益にしがみつくのは醜い。
子ども達を守らずして、老いも深まった自分を守って何になるのか。我が身を犠牲にする覚悟で、次の世代を守るのこそが「保守」ではないか。日本人の生き方そのものが問われている。自戒の念を込めて痛感するところである。
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