【JCA週報】2010年のJAが危ない、将来方向は#5 (坂野百合勝) (2002)2024年5月13日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長山野徹JA全中代表理事会長、副会長土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、当機構の前身である協同組合経営研究所が発行した「協同組合経営研究月報」2002年7月号に、坂野百合勝氏が執筆された「2010年のJAが危ない、将来方向は」です。
ボリュームの関係から複数回に分けて掲載いたします。途中で他の掲載を挟んだ場合はご容赦ください。
2010年のJAが危ない、将来方向は#5/全7回(2002)
坂野百合勝(全国農協役職員共済会・常務理事)(当時)
(連載21世紀における協同組合の意義と課題 第2回)
はじめに (#1)
10年後のJAが危ないー経営基盤を揺るがす世代交替一
1.右肩下がりの環境下で経営力低下 (#1)
2.世代交替がもたらす深刻な影響 (#2)
3.経営基盤を揺るがす資本力の低下 (#3)
4.伸び率低下の事業伸長率 (#4)
5.進む正組合員の勢力縮小 (#4)
6.組合員の参加・参加力の低下 (#5)
7.次々に発生する不良資産 (#5)
8.高コストで競争力低下 (#5)
10年後も活力ある組織で発展し続けるために (#6)
JAの将来像と課題 (#7)
10年後のJAが危ないー経営基盤を揺るがす世代交替一(続き)
6.組合員の参加・参加力の低下
協同組合の強さは,事業展開や運営に組合員の参加・参画がどのような水準で実現できているかにかかっているが,JAにおいてはどうか。JAではこれまで事業連指導により組合員を顧客として位置付けた,いわゆる顧客満足経営という戦略を展開してきている。つまり組合員は,役職員がお膳立てした料理を,単に食べにきてくれるだけでよいというお客さんにしてしまったのである。
JAの組織が「組合員=出資者=運営者=事業活用者」であるという関係性を絶ち切って,単なる利用者化してしまっている。組織の所有者と経営者そして事業活用者の三位一体的組織特性からくる関係性を切り崩し,この協同組合ならではの関係性からくる強さを放棄してしまったのである。
役職員によるご用聞き事業推進方式の導入や,常勤役員主導による運営方式等を導入したことによって,組合員のJA運営への組合員力発揮への視点の経営点検指標も消えてしまった状況にある。
だがJAの地理的環境特性と所詮零細資本しか持ち合わせない組合員の集積組織であるJAのパワーは,強大な資本力で展開する顧客満足経営戦略術をいかに駆使しても,大資本に対抗するだけの力を発揮することは不可能に近い。
今日のJA経営の行き詰まりは,JAの特性を追求することなく,時流に乗った理論とノウハウを,何ら疑うこともなく導入して推進してきた事業推進方式の行き詰まりでもある。
JAの強さは,やはり組織の主人公は組合員であり,組合員が主役の事業開発,そして組合員の参加・参画による事業推進や組織運営を行っていくことにある。このことは組合員が当事者意識を持ち,わが事としてJAの事業,運営,経営に関わってくれる可能性をもたらすのであり,このことが右肩下がりの事業,資本力低下の経営力を高めてくれるパワーにもなるのであるが,現状の組合員の参加・参加力は年々低下している。
7.次々に発生する不良資産
JAや連合会の不良資産処理能力はどうか。後を絶つことなく,巨額の不良資産が顕在化して,経営危機に陥っているJAや信連が発生している。原因はハイリスク型の有価証券の購入や経営破綻の融資先企業が多いためであるが,リスク管理の甘さと同時に金融に関する基礎知識の不足が指摘できる。金融に携わる役員や職員が,当然習得しておかなければならない常識レベルの知識と行動が欠如していることがある。
JAは貯金を集めて信連に送金し,信連はJAから集まった資金を農林中金に送金することが信用事業の主な業務であったが,このような業務をこなす程度の金融能力では,激動期には不良資産再発防止の仕事はできない。不良資産の処理対策に日夜明け暮れている現状にあるが,その対策も救済のための広域合併と県下あるいは全国のJAグループによる助け合い活動,相互援助活動による救済合意を取り付けることが内容となっている。
巨額の不良資産を発生させたJAや連合会は単独での不良資産処理能力は無力に近い状態にある。救いの手を差し出すことができてきたJAや連合会も,いまや余裕がなくなってきており,相互援助方式による救済策にも限界が見えてきている。JAグループにおいても不良資産の処理能力は年々低下している。
8.高コストで競争力低下
JAの競争力や優位性を保つことに必要な生産性力はどうか。事業総利益は対前年度比で各事業とも大きくマイナスであり,事業管理費も合理化努力はしているもののなかなか削減できず,主たる経費である人件費の削減も対前年比で1~2%台を脱しきれないでいる。
労働生産性も著しく低く,事業利益も経常利益も大幅にダウンする傾向をたどっている。組合員力を活かした事業推進や運営方式から,安易な役職員請負主義の経営に転換してきたことによる付けが,右肩下がりの経済期に入って顕著に表面化してきている。
余剰の労働力,過剰な設備,非効率な運営などの要因は,労働生産性を著しく低下させて,効率的な運営を妨げている。JA経営の生産性力を高めていくためには,不必要な贅肉を落とすための徹底した合理化が必要であるが,この対策は経営者が将来予測を踏まえて確たる方針を示し,期間を定めて,背水の陣を敷いて取り組まなければ実現できない。
経営者が覚悟を決めて,身体を張ったローコスト対策を行い,経費率を低下させていかねばならない状況下にあるにもかかわらず,そのための役員研修会も用意されていない。
役員研修は評論家の講演を聞く程度ののんびりしたもので終始している。生産性を高めていくための必死の構えはできていない。これでは高コストによる経営破綻に追い込まれかねない状況である。組合員の参加・参画等を踏まえたJA特有の事業方式の開発を行いながら,生産性力を高めていく取り組みをすることが大きな課題となっている。
(続く)
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