カネに関する報道の責任【小松泰信・地方の眼力】2024年5月22日
タカラジマ夫妻やオオタニさんのニュースもほどほどに。報道すべきものはもっとある。
アベのヒャクマン
報道してほしいニュースは、中国新聞「決別 金権政治」取材班によるスクープ。
同紙(5月9日付)は、機密費を所管する内閣官房内閣総務官室に2019年以降の機密費の支出関係書類などの開示請求をした。同室から、出納管理簿などの関係書類が開示されたが、出納管理簿などの一部は黒塗りされ、使途や支払先が分かるような記述はなかった。19~22年度の出納管理簿によると、各年度とも機密費は12億3021万円が国庫から支出されていた。うち9割以上が、官房長官自らが管理し領収書なしでも支出できる政策推進費に充てられていた。
民主党から政権を奪還した自民党が初めて迎える国政選挙だった2013年7月の参院選で、当時自民党総裁で首相だった故安倍晋三氏が、同党公認候補の応援に入った際に現金100万円を渡していた疑いがあることが8日、同紙の取材で分かった。しかし安倍氏、候補者が関係する主な政治団体などの収支報告書には100万円の記載はなし。複数の元政権幹部は、使途が公表されない内閣官房報償費(機密費)が使われた可能性があるとの見方を示した。時効は成立しているが、政治資金規正法違反(不記載)などに当たる可能性もあるとのこと。
この候補者は匿名を条件に、安倍氏が応援演説に入った当日、個室で面会する場面があり、安倍氏からA4判の茶封筒を受け取った。茶封筒の中には白い封筒が入っており、その中に100万円が入っていたという。
この期間中、安倍氏は候補者の応援のため、35都道府県を遊説に回ったそうだ。
カネのなる機密費の御利益
そして2019年参院選広島選挙区の大規模買収事件。元法相の河井克行氏が、妻の案里氏を当選させる目的で地方議員や後援会員ら100人に計2871万円を渡した。検察が克行氏宅の家宅捜索で「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされたメモを押収していたことが23年9月の中国新聞の報道で判明。検察は裏金提供を示すメモとみていたが、当時自民党幹事長の二階俊博氏と官房長官の菅義偉氏、克行氏は同紙の取材に現金授受を否定した一方、党選挙対策委員長だった甘利明氏はメモの記載通り100万円の提供を認めている。
中国新聞(5月10日付)は、同紙が追い続けているこの大規模買収事件でも、当時の安倍政権中枢が裏金を提供した疑惑が浮上していることから、自民党政権で官房長官を務めた元政権幹部に、疑惑の目が向けられるカネの一つ、内閣官房報償費(機密費)について追った。
その機密費を選挙に使うことはあるのか―。記者の問いかけに元官房長官は「あると思う」と語った。実際、国政選挙の候補者の選挙応援に行った時に、陣中見舞いとして渡す100万円を機密費から捻出したという。「首相が行けないから代わりに行ってくれと言われ、仕事みたいに思っていた。何らかのものを渡さないといけないと思った」と振り返った。
「国の施策推進」のための機密費を選挙に使うことは適切なのかとの問いには、「厳密に言えば選挙ではいけないと思う。税金だから」と、悔恨の念をにじませながら語っている。
安倍氏の疑惑に関し、機密費から2800万円を出すことの可能性についても、「いろいろあるやつを集めて一つにして出せないことはない。毎月1億円が入ってくるから」と、無理をすれば出せる額との答え。
後日、別の官房長官の下で官房副長官を務めた元衆院議員も取材に応じ、19年の参院選で広島選挙区が安倍政権の重点区だったことを踏まえ、菅が提供した疑いがある500万円は機密費から容易に出せる額と断じた。さらに、「政権の命運に影響を与える選挙。それならば機密費を使う理屈にできる」と見立てを語り、「使途を明かす必要がなく、『この世に存在しないはずのカネ』があるようなもの。どういう使い方をしても、違法にならない」と例えたそうだ。
こんなカネのなる機密費と統一協会の力を借りれば、政権基盤は盤石となる。しかし国家の基盤は脆弱となる。
メディアはこのスクープを報じろ
5月12日のNHKの討論番組で大石晃子氏(れいわ新選組共同代表)が中国新聞のスクープを踏まえ、機密費の選挙への流用疑惑をただしたのに対し、自民党の鈴木馨祐氏(自民党衆院議員、党政治刷新本部座長)は「選挙目的、党目的で使うことはない。断言させていただきたい」と、具体的根拠を示すこともなく述べた。さらに、現在の林芳正官房長官は13日の記者会見で、「国の秘密保持上、使途を明らかにすることが適当でない性格の経費として使用されている。個別具体的なお尋ねにはお答えを一切差し控えている」と述べた。おふたりとも、知っているのに知らん顔。
農林中金は大丈夫?
カネに関連して、JAグループの関係者として気になる喫緊のニュースは、農林中央金庫(農林中金)が総額1兆2000億円規模の増資を検討していることである。
日本農業新聞(5月20日付)によれば、米国金利の高止まりで、米国債の評価損が膨らんだことが主たる理由。25年3月期は5000億円超の最終赤字を計上する可能性があるが、質の高い資本への振り替えや新たな資本の調達で、将来の収益性向上や財務基盤強化を目指すとのこと。なお、健全性を示す自己資本比率はメガバンクよりも高い水準を維持しているそうだ。
産経新聞(5月22日付)によれば、坂本哲志農水相は21日の記者会見で、「金融庁とも連携し、金融市場の動向などを踏まえつつ経営について十分注視していく」と述べた。さらに、農林中金が赤字になると、JAへの配当がなくなるため各JAや組合員への影響も懸念されるが、「個別の民間金融機関の資本政策について農水省として答えることは差し控える」と明言を避けた。
この坂本発言は無責任。なぜなら、当金庫は銀行免許を持つ金融機関ではあるが、所管は金融庁ではなく農水省だからだ。
気になったのは、日本農業新聞(5月15日付)が伝えた食料・農業・農村基本改正案に関する参院農林水産委員会(5月14日)の参考人質疑における、馬場利彦氏(JA全中専務)の意見概要。「改正案にはJAグループの提案が反映され評価している。今後の課題は、いかに施策を具体化していくかだ(後略)」と、改正案を評価する、極めて危機意識の乏しい内容であった。
これが本音だとしても評価できない。しかし、農林中金の赤字、増資の問題から、所管庁のご機嫌を損ねてはグループの一大事として、このような発言になったとすれば、「農中救って農業捨てる」問題発言。ゲスの勘ぐりであることを願うばかり。
「地方の眼力」なめんなよ
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