輸出ポイント制で原料米をコメ加工食品に提供?【熊野孝文・米マーケット情報】2024年5月28日
先週はコメ加工食品業界団体の総会が立て続けに開催された。総会では、現在の情勢を反映してどの団体でも原料米問題が時間を割いて取り上げられた。また、国の施策もあってコメ加工食品の輸出についても各団体が詳しいデータを示し、新年度の事業計画で輸出に取り組む姿勢を強調していた。団体の中には輸出を原料米も問題を組み合わせて「輸出した数量に合わせたポイント制にして、そのポイントに見合った原料米を供給してくれるような制度があれば良いですけど」と皮肉を込めた発言をする団体幹部もいた。
米菓業界の全国団体全国米菓工業組合は5月20日に第63回通常総会を千代田区で開催した。事業報告書では、平成5年度の米菓生産は、あられが8万9000tで前年比94.7%となったのに対して、せんべいは火災事故から回復した大手米菓メーカーの生産もあって13万t、前年比109.1%と伸びた。輸出数量は4,565t、前年比101%で堅調な数量を継続している。主な輸出先国は1位アメリカ、2位台湾、3位香港。
原料米問題については、米菓組合単独や全国加工米需要者団体協議会と合同で農水省に要請活動を行った際の要請文や農水省とのやり取りを参考資料として掲載、原料米調達委員会の論点として現状だけではなく6年産についても以下のような懸念を示した。
・5年産主食用米の市場価格上昇を受け、加工用米生産者が主食用米作付けに転換する動きが増加。その結果、産地からは5年産契約数量を下回る作付け計画が提示されている。仕入リスクのある特定米穀から加工用米仕入れの切り替えを行う当業界を直撃。需要に応じた生産が基本の加工用米制度になっているのか疑問。
・価格についても、現下の市場価格や資材費等の高騰に伴う価格改定協議
・特定米穀は発生状況に応じた手当てとなるが、絶対量確保のため産地とつながりを強めていく必要。いずれにせよ6年産米原料米仕入れに非常に強い危機感あり。
以上のように記しており、具体的な6年産加工用米取組計画の協議状況として、団体経由の6年産加工用米の購入希望は6千t弱あるが、産地側の作付意向ではその半分の3千t程度に留まっている状況で、これでは必要量を確保できないと危機感を強めている。農水省は需要に応じた生産を強調するが、現状のコメ政策では需給ギャップは拡大するばかりであり、原料米の安定確保は難しいとしている。
味噌業界の全国団体全国味噌工業協同組合連合会は5月23日に中央区で通常総会を開催、事業報告では令和5年の生産数量は36万4,631tで前年比95.6%、数量ベースで1万6,895tと大きく落ち込んだ。また、輸出数量も反転し、暦年ベースでは2万298tで、前年比1400t減の93.5%になった。輸出先国ではアメリカと中国向けの落ち込みが響いた。特に中国は前年に比べ約半分にまで落ち込んだ。
原料米については、MA米は令和6年4~6月分の長期販売の価格はアメリカ産がt16万2,500円と前回に比べ3,700円値下がりしたが、タイ産米は11万2,500円と前回に比べ 8,100円値上がりした。今年に入って1~3月までの原料米使用状況は、国産米が7,273tであるのに対して外国産米の使用量は1万0,581tで外国産米の使用量が大幅に増えている。
パックご飯の全国団体全国包装米飯協会は5月23日に荒川区で定時総会を開催、令和5年度の生産量は20万8,194tで前年比0.8%減と統計を取り始めてから初めて前年割れとなった。輸出数量は697tで前年に比べ15%伸びた。昨年10月に成田空港で帰国外国人にパックご飯2000食を配布したが、今年も離日外国人に周知することにしている。また、新たにパックご飯の製造を開始したジャパンパックライス秋田と㈱相馬屋が新たな会員社になった。
原料米については原料米使用割合の年会費を決めたほか、総会後の懇親会で佐藤元会長が新潟県産米の高温障害による品位の低下にいかに対応したかを述べるにとどまった。会員社の中にはアメリカに輸出するための製造ラインを増設してところもあるが、資材費が高騰してラインの増設がペンディングになっているところや1ライン閉めたところもあるなど順風満帆と言えるような状況ではない。輸出ラインを増設してところでさえ原料米の価格上昇によりアメリカでの競争力を失うのではないかと懸念している。パックご飯の原料米は一般米であり、市場価格で購入せざるを得ずこのままいくと6年産米は少なくとも5割アップのコメを買わなくてはならなくなる。
冒頭に輸出に見合った原料米提供を求める声に触れたが、これは加工貿易制度を柔軟に運用することで可能になる。現行制度でも原料米として外国産米を使用した場合無税で購入できる。外国産米では国産農産物の輸出振興にはならないので、政府備蓄米や新規需要開拓米を国際相場並みの価格でこれらコメ加工食品業界が買えるようにしたら一石二鳥になるのではないか。
重要な記事
最新の記事
-
「地域と食を守る農政が筋」 国民民主党衆院・玉木雄一郎議員に聞く(2)2024年12月25日
-
加工原料乳生産者補給金 0.23円増の11.90円/kg 黒毛和種保証基準価格 1万円引き上げ 2025年度畜産物価格2024年12月25日
-
【小松泰信・地方の眼力】輸入米で輸入するもの2024年12月25日
-
農山漁村の関係人口増加めざし官民で共創 農水省2024年12月25日
-
2月19日に国際協同組合年キックオフイベント オンライン参加を募集 全国実行委員会2024年12月25日
-
中山間地域の農業維持にスマート農業 WEBミーティングで事例紹介 全農2024年12月25日
-
生乳の需給調整 全国的な取り組み促進 補助事業とのクロスコンプライアンス導入 農水省2024年12月25日
-
輸入米「争奪戦」過熱 SBS入札で7年ぶり完売 業務用で引き合い強く小売にも2024年12月25日
-
1位の北海道 前年比4.3%増の1兆3478億円 23年の都道府県別農業産出額 農水省2024年12月25日
-
農業総産出額 5.5%増加 9兆4991億円 農水省2024年12月25日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月25日
-
第12回「食品産業もったいない大賞」AIとビッグデータ活用の食品ロス削減に農水大臣賞2024年12月25日
-
2月4日に新春の集い 袴田ひで子さん、むすびえ・湯浅誠理事長、伊那食品工業・塚越寛最高顧問が講演2024年12月25日
-
ふるさと納税サイトで「見える化」特集ページ「みえるらべる」全国へ拡大 農水省2024年12月25日
-
「農山漁村」経済・生活環境創生プロジェクト始動 農水省2024年12月25日
-
「JAヨリアイin東京2024」 「対話する協同組合が生み出すもの」を考える2024年12月25日
-
【人事異動】東邦化学工業(2025年1月1日付)2024年12月25日
-
農・食の魅力を伝える「JAインスタコンテスト」グランプリは「JAふくしま未来とJA幕別町2024年12月25日
-
「NHK歳末たすけあい」へ寄付 JA全農2024年12月25日
-
【役員人事】ヤマハ発動機(2025年3月下旬)2024年12月25日