【JCA週報】 満足(CS)追求の先に何があるのだろうか (藤井晶啓)2024年6月3日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長山野徹JA全中代表理事会長、副会長土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の2023年冬号に掲載した内容です。
本コラム「JCA週報」は今回(2024年6月3日)をもっていったん終了とさせていただきます。2019年4月1日より5年間にわたりお読みいただいた皆様、ありがとうございました。
また、掲載の機会をいただいた農協協会の皆様に重ねて感謝申し上げます。
JAバンクとして10数年かけて取り組んできた「顧客満足」の先に何があるのだろうか。
単に「組合員」と「顧客」の言葉尻をとがめる話ではない。2023年11月17日に農林中金が主催した第2回JAバンク経営者フォーラムに出席しながら、金利上昇局面におけるJA経営について考えてみた。
本フォーラムは経営者の相互研さんを目的に、全国から約70JAのそうそうたる組合長らが参加した。顧客本位を追求した優良事例が紹介されるとともに、JAバンク利用者満足度調査の報告と「CS調査の活用による顧客満足の向上」についてコンサルタントの講演が行われた。
2022年から取り組んでいるJAバンク利用者満足度(CS)調査は既に530JAと全国の98.5%のJAが実施している。主催者側のメッセージは「CS調査をJA経営にもっと活用してほしい」に尽きる。講師も①CS調査で顧客目線とのズレを明確化し施策変更、②全施策で満点を目指すのではなく、全体満足度への寄与度を見極めて重点化、③CS調査を施策のKPIに活かして顧客獲得などについて強調されていた。
講演を聞いて疑問を抱いたのは「なぜ、いまのタイミングで顧客満足の基本をJAの経営トップ層に講演するのか」、それと「顧客満足を目指す先に何があるか」の2点である。
かつて「JA職員は『組合員はJAを利用して当たり前』と思っているから、対応が雑で親身でない」との批判があった。しかし現在は組合員も員外利用者もJAを見る目は厳しいから、そのような職員はいない。むしろ組合員にも職員にもお客様意識は相当に強まっている。では10数年間かけて農林中金は顧客満足を追求してきたが、期待する事業成果につながっていないのは何故か。JA経営者の顧客満足への理解不足が原因なのか。
世間でも顧客満足を唱えるだけではうまくいかないようだ。コトラーは、マーケティングが「製品中心の1.0」、顧客満足を追求する「顧客中心の2.0」を経て、価値や環境配慮等の「人間中心の3.0」、「デジタルとのハイブリッドによる4.0」、そして「AIの機械学習等を活用した5.0」へ変化していると説明する。CSは顧客満足よりも「カスタマーサクセス」を指すことが増えている。顧客が求めるモノを提供すれば新規顧客を獲得できる時代ではないから、顧客の成功を支えて共に成長を目指すという考え方だ。
協同組合であるJAが「顧客満足」を追求することは、三位一体たる組合員を所有と経営と利用に分断する効率化戦略である。その功罪としてJAが誰のために何をする組織なのか、というパーパス(存在意義)自体を組合員も役員・職員も意識しないで済んだ時代が続いた。
今のJAを支えている団塊の世代は2025年には全員が75歳以上になる。現役の40代・50代との関係を構築したくても、従来型の顧客満足の取り組みでは他行に太刀打ちできそうにない。すでにJA貯金のシェアは9%台から8%台に下降傾向で推移。自らの存在意義が建て前だけの企業から若手が離職していくのは夢も希望も描けないからだ。
分断化した顧客満足の先で協同組合としての三位一体に結びなおすには、相当の戦略見直しと経営資源の投入と時間が必要となる。経営が目先重視になりがちな今だからこそトップの経営判断が問われる。
日本協同組合連携機構 常務理事 藤井晶啓
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