ハジ知事とトヨタの口車【小松泰信・地方の眼力】2024年6月5日
6月3日午前6時31分ごろ、輪島市と珠洲市で最大震度5強を観測した地震により、輪島市では能登半島地震で損傷した家屋など5棟が倒壊した。
もうこれは人災
北國新聞(6月4日付)はその時の状況を伝えている。
「公費解体が進まぬ中、2次災害の懸念が現実となった格好で、中には2階部分が道路に崩落した建物も。早朝で人通りが少なかったことが幸いしたものの、通行人に直撃すればただでは済まなかっただろう。倒壊の危険性がある建物に近づく怖さを、あらためて思い知った」(同紙輪島総局長)
「いずれ崩れるかもしれないと思っていた。今日(3日)の地震でとどめを刺された」と語るのは、変わり果てた自宅を見てぼうぜんとしていた会社員(50代)。木造2階建ての家屋は元日の地震で壁が「く」の字に曲がり、3日の地震で1階がつぶれた。2階部分は住宅前の道路上に落下。人が歩いていれば大けがは避けられなかった。4月、市に公費解体を申請したが、「希望者が多く、半年くらいかかる」と言われたとのこと。
市への取材によると、市による公費解体は6月2日時点で受付5004件。うち、業者へ連絡したのが383件、完了は120件。業者不足がネックとなり、思うように作業は進んでいない。
「前から次の地震で崩れるかもしれないと思っていた。危ない建物はできるだけ早く解体してほしい」との切実な願いも紹介している。
「蓄積疲労」に要注意
ところが、元日同様、石川県の馳知事、西垣副知事、中塚広報監、三人とも都内におり、県内に残っていた徳田副知事が陣頭指揮を執った。「まだ防災服を着ている非常時に、知事と副知事が一緒に県外へ出るのは、危機管理上いかがなものか」と苦言を呈するのは県幹部。ちなみに、西垣副知事は危機管理監室の担当でもあるそうだ。
知事としての被災地訪問が岸田総理と同じ1月14日だったことから、「被災地に馳せ参じない馳知事」とか「ハジ知事」と全国に名を馳せているが、今回のことで、「ハジの上塗り」。
「能登半島の地震活動は少し落ち着いたように見えていたが、輪島、珠洲市で震度5強を観測した3日の地震は、そんな人間の勝手な思い込みに警鐘を鳴らすかたちとなった」で始まるのは北國新聞同日付の社説。
「一連の群発活動でダメージが積み重なっている被災地では、新たな衝撃で崩れかねない建物や地盤が多くある。復旧を終えた水道などのライフラインや道路も応急的な手当てにとどまり、揺れには脆弱なままである」と窮状を伝える。
入梅の候、「2次避難先から戻り、損壊した自宅にリスクを承知で居住する住民もいる。見かけは問題なさそうでも、たび重なる地震の衝撃で建物には『蓄積疲労』が生じている可能性が高い」ことから、警戒の必要性を訴える。
「安全性に問題はない」とはよく言うよ
時を同じくして、この国の産業界にも激震がクルマに乗って走っている。自動車の「型式指定」の認証試験をめぐる不正が、トヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社で発覚したことだ。
毎日新聞(6月5日付)において赤間清広氏(同紙専門記者)は、オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所が実施した国民調査で、「最も信頼できる国は、日本」という結果が出たことを紹介し、この評価に「メード・イン・ジャパン」の品質が大いに貢献したとする。
しかしその足元を大きく揺るがしているのが今回の不正。
トヨタの豊田章男会長ら各社のトップが急きょ記者会見を開いたが、各社とも「安全性に問題はない」と連発したことに、「車の性能は十分なのに、国への手続きでミスがあったと言わんばかりの無責任な発言に驚いた」と記している。
当コラムも、ニュース等でこの発言を知ったとき、問題発言と断じた。例えば、賞味期限切れのものを出荷販売していた業者ならば、再起不能なほどの社会的制裁を受けるからだ。日本経済を支えてきたという思い上がりからでた発言と苦々しい思いで聞いていた。
赤間氏は、「開発期間の短縮など利益重視の経営陣がむちゃなノルマを一方的に社内に押しつけ、追い詰められた現場が不正に走るという構図」を、自動車業界で悪質な不祥事が毎年のように発覚している共通の理由とする。そして、「今回も、こうした『悪癖』が繰り返された恐れはないか。検証なくしてうみは出し切れない」と迫る。
なぜなら、「日本製品に不信が広がれば、この国の未来は危うい」からだ。
豊田会長の口車には乗らない
トヨタ自動車が5月8日に発表した、2024年3月期決算は売上高に当たる営業収益が前期比21%増の45兆0953億円、本業の儲けを示す営業利益は同96%増の5兆3529億円。いずれも過去最高で、営業利益は日本企業でも前人未到の数字だった。
東洋経済ONLINE(5月13日 7:00)によれば、佐藤恒治社長は「長年のたゆまぬ商品を軸とした経営と、積み上げてきた事業基盤が実を結んだ結果だ」と自己評価。しかし今となっては、興ざめ。
朝日新聞(6月5日付)の社説は、「豊田氏は会見で自社の不正を謝罪しつつ、『ブルータスお前もかという感じ』とひとごとのように語った」とし、「巨額の収益を上げつつ、その足元で消費者の信頼を裏切っていた企業のトップの言としては、違和感を禁じ得ない」と指弾する。
当コラムは豊田氏が、会見で不正撲滅対策を問われて、「トヨタは完璧な会社ではございません。間違いも起こるでしょう。間違いが起こったときに立ち止まり、すぐにそれを直していく。そのサイクルを回していくことで永続的に企業活動が許される。私自身は社内で不正撲滅と言ったことはない」という回答をしたとき、傲慢さすら感じた。
不正も間違いもゼロにはならない。だからこそ限りなくゼロに近づける努力が不可欠なはず。
一つの不正や間違いが、尊い命を奪ってしまう自動車を製造している世界のトヨタの会長とは思えない発言。
それとも、裏金政党にたくさん献金しているから、なんとかなるとでも高を括っているのか。エ~車屋さん。
「地方の眼力」なめんなよ
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