シンとんぼ(97) -みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(7)-2024年6月8日
シンとんぼは令和3年5月12日に公表された「みどりの食料システム戦略」をきっかけに始まり、みどり戦略の大義である「安全な食糧を安定的に確保する」を実現するために、現場は何をすべきなのかを、同戦略のKPIとその有効性や今後の農業に与える影響などをひととおり検証しながら考察を加えてきた。そして行きついたシンとんぼなりの結論が、現在ある技術を正しく活用すれば、新たな技術開発やイノベーションを待たずとも、みどり戦略の大義は達成可能だろうということだった。
そこで、前回からみどり戦略対応のために、農業現場はどう動くべきなのか、昆虫の分際で持論を展開しており、現在は有機農業の取組面積拡大について検討している。
前回は有機農業拡大に関するKPIがどんなものだったか振り返ったのだが、その中でKPIを実現するために「次世代有機農業に関する技術」が示されている。現在、それらの技術が現在はどういう状況なのか検証しており、今回は2030~2040年までに確立するとしている技術を検証した。
それは、⑤除草の自動化を可能とする畦畔・ほ場周縁の基盤整備、⑥AI等を活用した土壌病害発病ポテンシャルの診断技術の2つである。
まず、⑤除草の自動化を可能とする畦畔・ほ場周縁の基盤整備についてである。これは、技術革新というよりも、今ある技術である自走式草刈機を効率よく活用するための環境整備事業であって、もっぱら重機による土木事業が伴うものだ。既存の自走式草刈機は、横刈り(斜面を横切るよう走行して草を刈る)の場合は傾斜角45度程度、縦刈り(斜面の上下に沿って走行して草を刈る)の場合は傾斜角50度程度が限界である。この角度を超えると、横刈りの場合転がり落ちたり、縦刈りの場合上行できなかったり転落したりなどして、草刈りどころの話ではなくなる。
中山間地の多い日本の農業現場では急斜面の傾斜地が多いため、これらの傾斜地を自走式草刈機が走れる程度まで斜面を緩やかになるように圃場自体を整備する革新的な基盤整備をしようというものだ。複数の小面積田畑を1つに集約する基盤整備すら遅々として進まないのに、莫大な時間と経費がかかる斜面を削って傾斜角度を変える土木事業を誰の費用でやるのか?
整備した結果得られるのは自走式草刈機による草刈りの省力化と労力軽減だけでは、土木作業の費用と自走式草刈機の減価償却が重くのしかかり、とても割に合わないだろう。費用を国が全額出して整備してくれるならいいが、それだと実施できる面積は限られるだろうし、整備後の作付可能面積が減った上に水漏れなどでしばらく使用できない農地になってしまうのは目に見えている。発想はわかるが、2040年までに有機農業者が実感できるほどに本当に傾斜地の整備が進むのだろうか? と思ってしまうのはシンとんぼだけだろうか?
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