市中相場の急落と量販店での安値一斉販売【熊野孝文・米マーケット情報】2024年6月18日
出来秋からほぼ1本調子で値上がりしてきた5年産米のスポット価格は6月5日に上げ止まったかに見えた瞬間、あっという間に下落、2日間で2000円、産地銘柄によっては3000円がらみ値下がりするという大きな値動きがあった。現在は小康状態を得ているが、下げ止まっているとは言えない状態。5年産米のスポット価格は6年産米の価格に直接影響するだけに新米が出回るまでにどのような値動きになるのかこれまで以上に関心が高まっている。
全米販が組合員向けに発したスポット価格高騰に対する「注意喚起文書」(既報)の中に「もうはまだなり まだはもうなり」という相場の格言が引用されていた。相場の格言の多くは江戸時代から続くコメ先物取引の中から生まれたものが多く、単に価格変動要因や先行きの予測を言い現わすものにとどまらず、中には人生訓に通じるものさえあるので現在でも脈々と引用されている。その意味では、「もうはまだなり まだはもうなり」という格言も実に奥が深い。今のコメのスポット価格高騰で言い表すと、この文書が発せられたのが5月28日で、その時は秋田あきたこまちや新潟コシヒカリと言った全国銘柄ばかりか関東コシヒカリも2万5000円を超えるまでになっていた。その時の仲介業者や卸などコメの当業者の見方のなかには「このままいくと6,7月はさらにひっ迫感が増して3万円を超えるのではないか」という予想まであった。天井価格は「まだ」という見方であったのだが、現実は6月5日天井を打った形になった。それがあまりにも突然でしかも大幅な値下がりであったことから市中でも情報が錯綜した。
値下がりの要因については①卸が端境期までの玉手当の目途が付いた②田植えが終わって生産者が手持ちのコメを売りに出した③農協との5年産長期契約の引き取り期限が6月末で、余りそうな玉を市中で換金し始めた④農水省より6年産主食用米の作付けが増えるという動向が発表された。これが心理的に影響した。ーなどなど。
6年産米との関係でいうと早場の南九州のコシヒカリの走り価格は2万円が基準になるものと予想されており、昨年の走り価格より5000円がらみ高いが、現在の5年産関東コシヒカリの価格より3000円がらみ安い。このままの相場水準で推移すると新古逆ザヤスタートになるわけで、そうならないように5年産の価格が下落することによって年産格差が正常になるように現物市場でサヤ(鞘)運動が起きていると捉えることが出来る。南九州の早期米は量が少なく、新米価格の位どころを決めるには役不足だが、千葉の早期米の価格について地元の卸は「2万円」を目途に予測している。最も早いふさおとめは6月11日に幼穂形成期を迎えており、2か月後には刈り取りが可能になる。60㌔2万円の玄米を仕入れて精米して販売するとなると店頭価格は5㌔2280円になる。そんな高い価格で量販店側と値入交渉できるかと問うたところ「新米が出回るころには併売する5年産などないからそれで大丈夫だ」との答え。そう答えたのが有名なディスカウントに白米を納入している卸なので2重に驚いた。要するにコメ卸業界も上げ賛成でこの際利益が出る価格で精米を販売したいということなのだろう。
驚くのは生産者も同じで、千葉の早期米の集荷業者の中では最も多くの数量を扱う業者のところに最近農家が籾で150俵を持ち込んできた。業者側が買取価格を示したところあまりの高値に驚いていたという。千葉の生産者は相場に敏感で高いところに売るというのが基本だが、それでも現在の一種異常とも思える高値は予想を超えるものだったようだ。
予想を超える動きとしては6月第一週に大手量販店に一斉に5kg1880円の精米がレジの近くに置かれていたことで、納入業者は違うがいずれも広域卸で、示し合わせたように同じ産地銘柄を同値で販売した。それだけでなく中堅スーパーでは中部圏の卸が石川のコシヒカリを5㌔1880円でレジ前に山積み、それを5袋も買う人もいた。また、全農系卸は千葉の粒すけの無洗米を5㌔1799円で販売し始め、いずれもどこにしまっておいたのかと感心した。
こうした芸当が出来る大手卸はそれだけ長期的スパンで玉揃えしていたということなのだろうが、ここでも驚く話がある。冷凍や総菜原料用のコメの扱いが多い卸は「5年産に切り替えたのが先月からだ」というのだから卸の懐の深さをいまさらながら知った思いがした。そうしたことがより良くできるようになったのも周年安定供給対策のおかげである。今年の3月末まで国が4年産米の保管料を支払ってくれたのだから卸の在庫負担はゼロである。5年産を同様の方法で在庫しようと契約し始めた産地と卸に対してその分は前倒しで販売しなさいという指示があったら5㌔1880円で販売することも出来るだろう。
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