新マル公価格になり得るか堂島の現物コメ指数【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月2日
農林水産省が㈱堂島取引所から申請があったコメの先物取引本上場を認可してことにより、同取引所は8月13日からコメの指数取引を行う。この指数の正式名称は「現物コメ指数」と言い、英語名はJapanese Rice Price Index(略称JRPI)と称される。現物コメ指数は堂島取から委託を受けた公益財団法人流通経済研究所が算出する。
現物コメ指数はどうやって算出されるかというと堂島取が公表した商品概要の説明書によると「農林水産省が毎月公表する『米の相対取引価格・数量』における全銘柄について相対取引契約の価格を前年検査数量で加重平均した値を基に『DI調査(米取引関係者の判断に関する資料)』から推計して算出した数値をいう」ことになっている。但し書きとして「なお、将来的には米の現物取引データ等(株式会社クリスタルライス、株式会社日本農産情報、みらい米市場株式会社等のデータ)も算出に利用する可能性がある」と記している。この文言を入れないと現状のようなスポット価格が乱高下している状態では、先物市場で売り買いされるコメ指数と現物市場での実態価格が大幅に乖離してしまう。
先物市場で売買される現物コメ指数は、あくまでも指数の売り買いであり、取引の決了は「当限月最終日に残存する当限月の建玉は最終決済日にて転売または買い戻しにより取引を決了させる」ことになっている。そこで重要になるのが最終決済数値で、これは「当月限の最終決済日に公表する平均米価(現物コメ指数)」であるため、この価格が先物市場で取引するうえで最も重要なポイントになる。
堂島取は早くも6月28日に6月分の現物コメ指数を公表した。その価格は1万5634円になっている。堂島取は毎月月末にその月の現物コメ指数を公表することにしている。
8月13日に取引が始まる限月は2025年2月限、4月限、6月限で、9月には8月限が建ち、12月までに1年先までの6限月が揃う。スタート時の8月に半年先の2月の価格を売買しなければならず、これについては堂島取が主催した商品設計委員会の席で「価格変動リスクが高まっており、取引開始限月は今年の10月限からにすべきだ」という意見が当業者や有識者から強く出たが、それは組み入れられなかった。このため取引開始時点でのスタート価格は半年先の予想推計価格で取引を始めることになる。
仮にスタート時点の8月の現物コメ指数(平均米価)が1万8000円であったとして先物市場での2月限の売買価格は1万6000円の大幅逆ザヤで始まったとする。この逆ザヤは最終的に2月限が当限に廻って来る間に必ず解消される。これは先物市場で形成される先行きの価格は最終的には現物市場の価格に収斂されるというのがセオリーだからである。
コメの当業者(生産者・集荷業者・仲介業者・コメ卸等)からは「コメの指数を売り買いしても自社が欲しいコメを売ったり買ったりできない」という声が聞こえてくるが、堂島取では現物コメ指数を活用した取引手法の資料を作っており、そこには全国各産地の銘柄の相関指数と価格換算表が出ている。これは令和元年10月から今年1月までのデータで算出したもので、秋田あきたこまちを例にとると現物コメ指数(平均価格)が1万4000円の時、秋田あきたこまちは1万3985円、1万4500円の時は1万4491円、1万5000円の時は1万4997円と言った具合で現物コメ指数と実際に取引される秋田あきたこまちの価格に高い相関が認められる。その相関指数は、秋田あきたこまちは0.97だが、北海道ななつぼしは0.94、宮城ひとめぼれ0.90、茨城コシヒカリ0.94、新潟コシヒカリ0.91で、いずれの産地銘柄も高い相関が認められることから堂島取では売りヘッジでも買いヘッジにも対応、活用できるとしている。
さらに現先連携システムにより堂島取が指定した現物市場で産地銘柄だけでなく未検米でもマッチングできるようになっており、商先業者を通じて自らが売りたい銘柄や買いたい銘柄をオーダーすれば納会前に取引が成立させることが出来る。
現在、世界中で隆盛を極めているデリバティブ取引の発祥の地、堂島コメ会所の商人たちは300年前に帳合米取引で「立物米」という名目上のコメを取引して、さらに日々の売買を清算する仕組み(クリアリングハウス)まで作り、価格変動のリスクを回避するという商取引における革命的なイノベーションを興した。
それだけ当時のコメ商人は頭が柔軟だったということの証で、現代人も頭を柔軟にして堂島の現物コメ指数を新しいマル公価格(食管時代の政府米売却価格・自主流通米時代の全農建値)とだと思って現物だけではなく、先物市場を活用してみる必要がある。
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