(391)西半球最大のコメ生産国【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年7月5日
ブラジル南部のリオ・グランデ・ド・スル(RS)州では2024年4~5月の大雨で大規模な洪水と被害が拡大し大きな影響が出ています。既に多数のメディアで報道されているため、ここではブラジルのコメという観点から見てみます。
日本では余り知られていないが、近年のブラジルは日本と同水準のコメ生産国である。米国農務省の生産量見通し(2024/25年)では、日本が720万トン(精米ベース、以下同じ)に対しブラジルは750万トンが見込まれている。
日本とブラジルのコメの需給バランスを比較すると興味深い。ここではコメの細かい品種などは一切考慮しない。米国農務省公表による「Rice, milled」つまり精米ベースの数字比較であり、需給の全体の把握を意図している
出典:米国農務省資料
内容は、輸入量、生産量は両国とも大きな違いはない。国内需要は100万トンほど日本の方が多い。大きな違いは輸出の有無である。直近の見通しではブラジルのコメ輸出見通しは130万トン、日本は8万トンである。その結果が、在庫数量の違いに現れている。ブラジルは87万トン、日本は154万トンであり、期末在庫を「国内需要+輸出量」で割った年度末の想定在庫率は、ブラジル10.5%、日本19.2%である。
ところで、地球を本初子午線(いわゆるグリニッジ子午線)から西回りに180度回ると西経180度になる。英文資料などにはよくwestern hemisphereという言葉が登場するが、これが西半球である。単純に言えば、南北アメリカ大陸をほぼ正面において地球儀を見た時に目に映る部分が西半球、ユーラシア大陸を正面にアフリカを左、豪州を右に置いた図が東半球である。日本は概ね東経120~150度に位置するため東半球に位置する。
説明が長くなったが、ブラジルのコメを一言で表す最適な言葉は「西半球最大のコメ生産国」である。よく考えてみればコメの大生産地であるアジア地域が東半球になるため、当たり前である。ただし、「西半球最大のコメ生産国」と言われると多少異なる視点が出ると思う。
さて、ブラジルは余り多くはないがコメの恒常的な輸入国でもある。過去25年の平均輸入数量は75万トン弱である。それが2023/24年度は130万トン程度になりそうだ。2024/25年度には順調にいけば95万トン程度に減少する見通しが出されている。これはもちろん、冒頭で述べた大雨による水害の影響である。何と言ってもブラジルのコメの8割以上がRS州で生産されているからだ。
こうした事態に対し、ブラジル政府はコメの輸入税を今年末まで停止し、年内に100万トンのコメ輸入方針を出している。この結果、それなりに数字は集まるにしても、輸入はパラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチンといった南米南部共同市場(メルコスール)内各国からの無税輸入中心から、米国などメルコスール以外からの輸入も価格次第で増加する可能性が出てきた。
一方、インドのコメ輸出制限の機会を活用してブラジルが獲得したアフリカ向けコメ輸出については、ブラジル国内の水害の影響で輸出価格が上昇しているため、再び米国に奪い返される可能性も生じている。
今や世界のコメ輸出数量は年間5,400万トンである。インドが1,800万トン、タイとヴェトナム合計で1,500万トン、パキスタン・ミャンマー・中国で1,000万トン、これら合計で4,300万トン、残りの1,000万トンをその他が競争している。生産コストの高い日本は、ここに単純に価格競争で入り込むのではなく、入るのであれば入り方、また国内での活用方法をしっかりと検討すべきであろう。
ブラジルと日本のコメの需給バランスは表面上、輸出や在庫以外は余り差が無いように見える。だが、ブラジルは大豆1.69億トン、トウモロコシ1.27億トン、小麦950万トンを生産し、コメはあくまでマイナー作物である。一方、これらの大半を輸入している日本にとってコメはほぼ唯一の武器である以上、その使い方は十分に考える必要がある。
* *
今更ですが、RS州で被害に遭われた方々の回復を心より祈念します。大昔の学生時代に訪問したポルト・アレグレの景色が思い出されます。
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