目指すべきは「健康かつ健全なJA経営」【小松泰信・地方の眼力】2024年7月10日
「第5条(県民の役割) 県民は、笑うことが健康にもたらす効果について理解を深めるとともに、 1日1回は笑う等、笑いによる心身の健康づくりに取り組むよう努めるものとする」(山形県笑いで健康づくり推進条例。以下、「笑い条例」と略)
山形県民は笑えるか
山形新聞(7月6日付)によれば、この「笑い条例」は山形県議会の会派・自民党が議員発議で提案したもので、6月定例会本会議(7月5日)において賛成多数で可決された。その目的は「笑いで明るく健康的な生活を実現すること」。毎月8日を「県民笑いで健康づくり推進の日」とするとともに、冒頭で紹介したように、1日1回は笑うなどして心身の健康づくりに努めることを県民の役割とする。また第4条では、「笑いに満ちた職場環境の整備等、従業員の笑いによる心身の健康づくりを推進するよう努める」ことを事業者の役割としている。
山形大医学部の研究で、笑う頻度が高い人は死亡リスクが軽減され、心疾患の発症リスクも抑えられるとの研究結果が発表されたことなどを踏まえ、自民県議有志が検討を重ね、パブリックコメントを経て提案したとのこと。
反対討論では、「県民の最高規範である条例化によって『笑うことが困難な方々の人権を損なうことがあってはならない』」とか、「笑う、笑わないは憲法が保障する思想信条の自由、内心の自由に関わる基本的な人権の一つであり『誰からも強制・指示されたり、義務付けられたりしてはならない』」との意見が出されたが、賛成26人、反対16人で可決された。
不自然な笑いにご用心
自民党山形県連によると、同様の条例は他になく全国初ということだが、「全国初」が目出度いとするなら、それこそおめでたい、全国的失笑の的。
当コラム、「笑い」は大好き。毎日笑って暮らしたいと心底願っている。しかし、信頼できるメディアから流れてくる情報は「笑うに笑えない」ことばかり。
その元凶の多くは、政権与党にある。元凶政党の県議団が「笑い」を県民や事業者に求めるとは、悪い冗談でしかない。
「笑って許して」と懇願しているのか、あるいは県民を舐めきって高笑いをしているのか。いずれにしましても低レベル。
反対討論のような高尚なレベルではなく、県民皆が自然に笑えるような県にするために汗をかくのが県議の仕事。
今度は健康経営ですか
ところで「笑い条例」第4条を知ったとき、頭に浮かんだのは、第30回JA全国大会組織協議資料にあげられている「健康経営」という言葉。恥ずかしながら初めて目にする言葉で、新しい経営学かビジネス書で提唱されていそうな「健康な経営」に関する新理論かと思った。ところが、資料の注書きによれば、「従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。(経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック」より)」と、そのまんまの何のひねりもない用語だった。
Wikipediaで補足すれば、「従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のこと」で、提唱者はアメリカにおける経営学と心理学の専門家、ロバート・H・ローゼン(Robert H. Rosen)。「メンタル面、フィジカル面の双方の状態を改善する取組を全社的に行い、従業員の健康増進を図ることで企業の生産性の向上につなげることを主な目的」としており、「短期的には疾病の従業員の長期休業の予防、企業の医療費負担の軽減、企業のイメージアップ、長期的には企業の退職者に対する高齢者医療費負担の軽減、従業員の健康寿命の長期化が見込める」などが記されている。
大会組織協議案と健康経営
「健康経営」については、組織協議案の「Ⅳ.経営基盤強化戦略」における「3.価値提供に向けた協同組合らしい人づくり」の「職場づくり」の中で言及されている。
提言内容は、「 JA・連合会・中央会は、職員の健康管理はリスク管理であると捉えて健康宣言および健康経営推進体制の整備を行うともに、健康保険組合等や厚生連と相談・連携し、定期健康診断100%受診の徹底・メンタルヘルス対策など、職員の健康維持・増進に向けた健康づくり活動や予防医療(健康な時期から始める生活習慣の改善、健康教育、予防接種等の一次予防)に取り組みます。JA グループは、『健康経営優良法人』の取得をめざす等、JA グループの健康経営の実践に向けて取り組みます。また、JA グループ役職員が健康経営に取り組むことを通じて、組合員の健康づくりへつなげていきます」となっている。
日本農業新聞(7月8日付)も1面で、「職員の健康づくりを支援して業務効率を改善する『健康経営』の推進がJAグループ内で広がっている。職員の検診受診率100%に向けた呼びかけや、健康状態の把握と目標設定、アプリの活用など、独自に目標を決めて取り組むJAなどが増える。職場の生産性向上や離職率低下、人材確保につながる経営戦略の一つとして、注目を集める。 経済産業省などが認定する『健康経営優良法人』のうち、JAや連合会で2024年に認定を受けたのは28団体。この3年間で4倍に増えた」などとして取り上げている。
具体例として、24年まで3年連続で健康経営優良法人の認定を受けたJA大阪南では、職員の健康意識向上や採用活動への効果などがあったこと、JAグループ群馬では、県域全体で健康経営を推進し、健診結果から職員の健康状態をJAごとにまとめた「健康スコアリングレポート」などを基に、県内15JAなどが健康経営に向けた実施計画書を作成することなどを紹介している。
これらに基づき、今JA全国大会を契機にJAグループにおいて、「健康経営」の取り組み拡大に期待を寄せている。
「現状に不満、将来に不安」から「現状に満足、将来に希望」へ
もちろん、JAグループに関わるすべての人が、健康な心身で喜びを感じながらその務めを果たすことを願っている。
しかし、JAグループのあり方について、あるいは自分の職場や仕事について、「現状に不満、将来に不安」を感じているとすれば、健康経営は夢のまた夢。今大会において、本心から健康経営の旗を振る気があるのなら、やるべきことはただ一つ。
「現状に満足、将来に希望」ある、「健康かつ健全なJA経営」の確立を目指し、それぞれが何をなすべきかを具体的に明らかにし、全力で遂行することである。
「地方の眼力」なめんなよ
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