(392)フード・バリューチェーン分解と就業者数推移【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年7月12日
少し古いですが、米国農務省の機関紙『Amber Waves』、2023年12月号に消費者が支払う食品1ドルの内訳が出ています1。同じトピックは、このコラムのNo.059(2017年12月1日)でも紹介しました。ほぼ7年を経て内訳はどう変化したかを見てみます。
紹介するのは2015年と2022年における米国のフード・バリューチェーン各段階の比較である。全体を1ドルとした時にコロナで混乱した5年間を含め、何がどれだけ変化したかを見ると興味深い。
左が2015年、中央が2022年、そして右は2022年を単純に2015年の数字で割ったものだ。例えば、1ドルのうち農場価格は2015年には¢8.7(¢はセント、以下同じ)であったが、2022年には¢7.9である。絶対値で見れば大きな変化ではないが、全体に占める割合で見ると▲10%になる。
Baker, Q. and Zachary J.C. "ERS Food Dollar's Three Series Show Distributions of U.S. Food Production Costs", Amber Waves, USDA-ERS, December 21, 2023.
食品加工は¢17.0から¢14.4でこれも減少している。減少率は▲15%である。包装は▲18%である。このあたりをどう解釈するかは難しい。製造や包装費用の実額を調べればもう少し詳細がわかるはずだ。実額の変化と合わせてみないと判断を誤る。
一方、輸送はわずかに増え、流通は変わらず、フードサービスと宣伝の割合が増加している。「その他」は2015年には「法務・会計」という分類で示されていたが、2022年は単純に「その他」である。増加割合はまだ小さいが印象と異なり包装・輸送・燃料・宣伝などよりも大きくなった点は要注意である。
目につくのはやはり農場・食品加工・包装の割合減少と、それとは逆にフードサービスや宣伝の全体に占める割合が増加している点だ。
農場・食品製造現場は効率性と生産性をあげるため合理化を追求し、販売部門は量を拡大するために宣伝に力を入れる。また、食の外部化が進展することでフードサービスの需要は拡大する...、という流れは共通でも、影響は段階により異なるということだ。
ところで、この期間の米国労働統計を少し眺めてみた。提示したグラフの縦軸にはALL EMPLOYEESと表示されているが、これはFood services and drinking placesに勤める人数で単位は千人である。2015年1月の米国では概ね1,100万人がこの業界で仕事をしており、2020年1月には1,220万人に達していた。これが2020年4月には631万人と1990年代水準まで、まさに半減した。その後、2023年初頭までには1200万人台にまで回復し、2024年6月の速報値では1233万人まで増加している様子がよくわかる。
それにしてもコロナの影響は凄まじい。有り体に言えば、1990年(650万人)以降、30年間にわたり創出してきたこの分野の雇用をわずか3か月で吹き飛ばしたと見ることができる。トレンドラインが元に戻りつつあるのは何よりだが、フードシステム自体の脆弱性が改善されたかどうかは未だによく見えない。
こうした数字やグラフを見ているといろいろなことを考える。米国の場合、消費者が費やす1ドルの食品価格の中で農場部門のウエイトは1割弱、燃料費を入れても1割強である。最終的な食品コストの9割は農場から後に生じている。
これを理解しておくことはさまざまな議論において極めて重要である。米国の場合、生産から消費までの全ての流れがほぼ米国内で完結する。従って、バリューチェーンの中で多寡が生じても最終的には米国内のフードシステム全体の調整で済む。
ところが日本の場合、そもそもコメのような自給可能な作物を別として、例えば、農業産出額トップの畜産は、その飼料のうち穀物をほぼ輸入に依存している。穀物輸入の本質とは、輸入量に相当する農地や投入した生産資材、さらに穀物を育てるための水、そして輸送費用などが見えないところ、つまり海外で費やされていることを意味している。
* *
現代日本の食料問題はもはや国際問題として考えるレベルと理解した方が良いということかもしれませんね。
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