【浜矩子が斬る! 日本経済】「政治が経済と袂を分かつ時」 空虚な選挙 悪質さ露呈2024年7月19日
エコノミスト 浜矩子氏
世の中、世界的に選挙ラッシュだ。フランスで、突然の国民議会(下院)選。イギリスの総選挙。日本では都知事選。アメリカでは大統領選が目前に迫って来ている。日本の総選挙も遠い話ではない。
一連の選挙風景を眺めながらこれは何とも変だとつくづく思う。選挙戦が選挙ショーになっている。政策がしっかり語られ、じっくり吟味されるというプロセスがあまりにも不在だ。
選挙の劇場化は今に始まったことではない。だが、それにしても、このところの状況は行き過ぎだと思う。どうして、こういうことになるのか。
それは、国々において政治と経済の間の隔たりがすっかり大きくなってしまっているからだ。筆者には、そのように思える。政治が経済と袂(たもと)を分かってしまった。政治家たちが経済を考えない。経済を語らない。経済とまともに向き合わない。この状態が選挙戦から内容を奪い、空騒ぎ化をあおっている。そのようにみえる。
政治が経済と真剣に関わらないことは許されない。なぜなら、経済活動は人間の営みだ。したがって、経済活動は人間を幸せに出来なければ、その名に値しない。経済活動がその名に値するものであり続けることを保障する。それが政治の役割だ。この役割を果たせない政治もまた、その名に値しない。だが、今の国々の政治はこの基本原理からすっかり遠ざかっている。
そこにあるのは、得点稼ぎと減点回避ばかりだ。今、何を言えば受けるのか。今、何を否定すれば賛同を得られるのか。今、誰を糾弾すれば人々は喜ぶのか。今、人々は何を聞きたいのか。聞きたくないのか。今の政治家たちは、こんなことばかりを考えている。
一応は経済運営に関する提案の形をとっていても、彼らが唱えることは、その何がどうしてどうなって、人々を幸せに出来る経済活動の有り方につながるのかが分からない。そもそも、そのような観点から経済政策について考えていないのだから、これは当たり前だ。
経済政策の本来の使命は二つだ。第一に経済的均衡の保持とそれが崩れた時の復元。第二に弱者救済である。第一の使命は第二の使命を果たすためにある。なぜなら、経済活動が均衡を失うと、そのことは直ちに弱者を深く傷つけるからだ。経済の均衡が崩れるとは、どういうことか。それは、経済活動が膨張し過ぎてインフレ化したり、経済活動が縮小し過ぎてデフレ化することを意味する。いずれの場合にも、ただでさえ貧困にあえいでいる弱者たちの窮地は深まる。場合によっては、命の危機にさらされることになりかねない。こんな不幸に人々を直面させるような経済状況を、政治は決して放置してはならない。使命に忠実な経済政策は人々の命の守り手なのである。経済政策に関するこの基本認識に欠けているから、政治は加点をゲットし、減点を避けることばかりに血道を上げる。
こうした体たらくが、日本の政治についてことのほか顕著だと思う。フランスにも、イギリスにも、アメリカにも、この体たらくはある。だが、日本が際立っている。そう感じたのが、例の「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)を読んだ時のことだ。その中で、久々に「財政の健全化」が大きなテーマとなっていた。日銀が国債の大量購入を止める方向に向かい、政府の債務返済負担が大きくなることを恐れて慌てているのである。そこで、社会保障費の一段の抑制などを進めるのだという。国民に対する公共サービスの量的質的低下を進める。このことのどこが、財政の「健全化」なのか。一方で過激な軍備増強を強行しながら、それこそ、国民の生命にかかわる社会保障の劣化を目指す。こんなものを健全財政と表現していいのか。こうした無神経さの中に、経済と決別した政治の悪質さがにじみ出ている。
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