切り花の日持ちを測る【花づくりの現場から 宇田明】第39回2024年7月25日
今回は、切り花の日持ちをどのように測るかを考えます。
切り花の鮮度とは、見かけ上のみずみずしさ(freshness)で、数値化することができません。
一方、日持ち(vase life)は、切り花を生けてから観賞価値を失うまでの日数であらわすことができます。
日本人は、切り花の日持ちに寛容でした。
美人薄命。
美しいものの命は儚い、花もおなじ。
お茶席に飾る切り花(茶花)は、1日で萎れても、落花しても風流と尊ばれていました。
それは草花や花の咲く樹木が身近に豊富にあり、商品とは考えられていなかったからです。
戦後、高度経済成長を経て、切り花が農産物として定着し、遠隔産地から輸送されるようになると、鮮度や日持ちが重視されるようになりました。
日持ちは、日数であらわすことができますが、観賞価値の有無を科学的に判定することはできません。
観賞価値があるかないかは見るひとの主観。
ひとにより判断が異なります。
花びらがすこし萎れただけで観賞価値がなくなったと考えるひとがいますし、花全体が枯れてドライフラワー状になっても観賞を続けるひともいます。
とくに、1本の茎にたくさんの花をつける品目は評価が難しい。
小ギク、スプレーマム、スプレーカーネーション、ユリ・・・。
1輪でも枯れたら観賞価値がないのか、最後の1輪が枯れるまで観賞価値があるのか。
小さな花が無数につくカスミソウはどのように評価すればよいのか。
消費者がそれぞれの価値観で判断することは自由です。
しかし、切り花を商品として扱う生産者、市場、生花店には、日持ちの評価基準が必要です。
切り花の日持ちは一定ではありません。
冬には長く、夏には短い。
これは、日持ちは気温に影響され、低温では長く、高温では短いからです。
どんな環境で日持ちを評価するかの基準がないと、日持ちの研究すらできません。
(一財)日本花普及センターでは、オランダの事例を参考に、日本の切り花の日持ち評価環境を定めています。
室温:周年25℃(オランダは20℃)
湿度:相対湿度60%を目標
照明:蛍光灯下で1,000ルクス程度
日長:12時間(6:00~18:00を照明)
冷涼な気候のオランダでは日持ちを20℃で評価していますが、亜熱帯気候に近い日本では25℃が家庭環境に近い温度です。
これら日持ち評価環境は、農協や都道府県の研究機関、農業改良普及センターの会議室などの活用を想定したものです。
エアコン、加湿器、タイマーがあればかんたんに設置できます。
ただし、生産者や生花店が、それぞれの時期の日持ちを確認する程度なら、室温がなりゆきの作業場、店内、事務所などで花びんに生け、変化を観察するだけで十分です。
評価環境の次は、観賞価値がなくなったと判定する症状を品目ごとに決めなければなりません。
これが意外とやっかい。
観賞価値の有無は、花が萎れた、枯れただけではないからです。
例えば、日持ちのクレームがもっとも多いバラは、次のようなチェック項目が定められています。
花びらの萎れ、花首の萎れ(ベントネック)、開花程度、灰色かび病、花びらの乾燥・変色、がく・葉の黄変の6項目。
これらチェックシートと評価画像も(一財)日本花普及センターのHPで公開されています。
https://www.jfpc.or.jp/manual.html
日持ち評価マニュアルの作成が、日持ちの長い切り花を消費者に提供するための第一歩です。
これらのマニュアルは、わたしも参加させていただき、2000年ごろから順次作成されました。
マニュアル画像と突き合わせて老化の程度を調べるなどアナログです。
現在ではスマホで撮った画像を検索するだけで、植物名、病虫害などが瞬時に、しかも高い精度でわかります。
切り花の日持ちもそう遠くない時期に、AIが評価してくれるようになるでしょう。
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日


































