2プラス2=死【小松泰信・地方の眼力】2024年7月31日
日米両政府は7月28日、東京都で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会、いわゆる「2プラス2」を開いた。
「統合」の意味すること
毎日新聞(7月29日付)によれば、自衛隊が2024年度末までに部隊運用を一元的に担う「統合作戦司令部」を創設するのに合わせ、米側は在日米軍を新たに「統合軍司令部」として再構成し、運用を強化する。東アジア地域で日米が連携して作戦行動をとる姿勢を鮮明にするとともに、装備品の共同生産についても、種類や生産能力を拡大する方針を示した。
また、拡大抑止、すなわち米国が自国の核戦力による「抑止力」を同盟国にも拡大していくことについても、「2プラス2」と別の枠組みで閣僚会合を初めて開催し、米国の核政策や核態勢などについて緊密に協議することを再確認した。
ここまで踏み込めば、「統合」の意味するところは、日米一体化というよりも、日本の自衛隊や軍需産業が米国の傘下に入り付き従うことと理解される。
西日本新聞(7月31日付)によれば、陸上自衛隊と米海兵が7月30日、実動訓練「レゾリュート・ドラゴン24」の一環で、大分県などの上空で日米の輸送機オスプレイによる共同編隊飛行を実施したことを報じている。同機に関する安全性への疑念が払拭されない中、九州周辺では陸自と米軍による新たな機体配備計画が進んでおり、住民は事故の再発を懸念している。
「危険な機体をなぜ飛ばすのか。住民の安全よりも自分たちの都合を優先させている」と憤るのは、演習場前で抗議活動をしていた「ローカルネット大分・日出生台」の浦田龍次事務局長。24、25日にも、住宅地上空などでオスプレイを目撃したとのこと。防衛省側に由布市内での事前説明会開催を求めたが「無視された」そうだ。
林官房長官、木原防衛相が語る嘘
「どのように地域の緊張を緩和していくのか。求められているのは対話の積み重ねであるはずなのに、会議後の共同発表は、それとは真逆の、中国に対する対決姿勢を前面に打ち出した内容だった」で始まるのは沖縄タイムス(7月29日付)の社説。
「自衛隊の統合作戦司令部が米軍の指揮・統制下に入ることはない」(林芳正官房長官)
「おのおの独立した指揮系統に従って行動する」(木原稔防衛相)
これらの発言を紹介したうえで、「戦争になったらどこが作戦指揮権を持つのか。軍隊の指揮権は、国家主権の最も重要な要素である。指揮権の独立性をどうやって担保していくのか」と疑問を投げかけ、「実質的には日本独自の判断に基づく主権行使が制約されるのではないか」と、不安を吐露する。
そして、前述した陸上自衛隊と米海兵隊の共同訓練を、「『2プラス2』で示された日米の共通認識を共同訓練という形で可視化した」と指摘し、「抑止力の強化は、対立の構図を緩和するものではない。緊張を高める恐れがあり、沖縄の負担は増すばかりだ」と、警戒を強めている。
空洞化する平和主義
信濃毎日新聞(7月30日付)の社説は、「自衛隊が米軍の指揮下に置かれるわけではないと政府は言うものの、軍事力、情報収集能力で圧倒する米軍が実質的に指揮権を握るのはおのずと明らかだ」との認識を示した、「肥大化した日米安保体制の下、米軍の戦略に組み込まれ、平和主義がさらに空洞化するのを防がなければならない」と警鐘を鳴らす。
そして、「2プラス2」が共同文書で前面に押し出した、「米国の『核の傘』による拡大抑止の強化」に言及する。
「拡大抑止は日米同盟の中核だ」と上川陽子外相は述べたが、拡大抑止をめぐる実務者協議は、かつてオバマ米大統領が「核なき世界」を掲げたことを、「日本政府が核の傘がほころぶ危機と受けとめたのが発端」だったことを記し、わが国が「米国による先制不使用の宣言にも反対し、核軍縮を押しとどめる側に立ち続けている」と指弾する。そして、核抑止力への依存を強めることは、「核廃絶と明らかに逆行」するとともに、「被爆国の責任をなげうつに等しい」として、政府の姿勢を厳しく問うている。
核抑止力は幻想
「核抑止力は幻想というほかない。核兵器が存在する限り、さまざまなリスクが伴う。自国の安全を高めようとする行動は、他国にも同じような措置を促す。相互不信と軍拡を助長した結果、衝突につながる緊張は高まりかねない」と正鵠を射るのは中国新聞(7月30日付)の社説。
「そもそも自分たちを守る核兵器はよくて、他陣営の核兵器は悪いと断じられるものだろうか」と問いかけ、国連の中満泉事務次長が、「核兵器は威圧の手段として使われ続けている。抑止力よりも対話を優先することが重要だ」と訴えたことを紹介する。
トランプ氏が大統領に返り咲く可能性もあることなど、安保の枠組みは見通しにくくなっているいまだからこそ、「困難であっても日本がまず取り組むべきは、核兵器の果たす役割を強めることではなく、減らす国際的な合意形成だ。被爆者と、核兵器禁止条約の下に集う国々をこれ以上、失望させてはならない」とし、「核なき世界」の実現を追求し続ける責任を忘れてはいないか、と首相に問いかける。
「2プラス2」が暗示すること
北海道新聞(7月30日付)の社説は、拡大抑止を核廃絶への逆行と位置付け、核廃絶に取り組むと主張している岸田首相に対して、「これでは口先だけだと言うほかない」と迫る。そして、核を搭載した原子力潜水艦の日本への寄港を懸念し、国是である非核三原則に抵触する可能性が高いことから、「なし崩しに形骸化させてはならない」とし、「拡大抑止をどう展開するのか、具体的な説明が不可欠だ」とする。
さらに、在沖縄米兵の性的暴行事件に関して、沖縄県議会は抗議決議で「米軍の人権意識に問題がある」と指摘しているにもかかわらず、共同文書では直接言及することがないばかりか、事件防止のための在日米軍の取り組みを前向きに評価したことを取り上げ、「両政府とも沖縄の怒りを全く理解していない」と慨嘆する。
戦争犯罪大国の指揮命令で動く、「特定秘密の不適切運用」「潜水手当の不正受給」「自衛隊施設での不正飲食」「防衛省幹部のパワハラ」等の不祥事多発自衛組織と性犯罪者を生み出す人権意識が欠如した米軍、これらに委ねた未来に待ち受けるのは死のみ。
そのことを「2プラス2」という名称が暗示している。
「地方の眼力」なめんなよ
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