(395)「スペック」vs.「人柄・将来性」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年8月2日
スペックとは工業製品の「仕様(specification)」のことですが、最近では人間に対しても使われることがあります。
終身雇用はすでに過去の話...、というような声をよく聞くようになった。就活中の学生などが参考にするマイナビ「転職動向調査2024年版」[注1] によると、2023年の正社員の転職率は7.5%で2016年の3.7%以降最高という。10年も経たずに転職率は倍増した訳だ。
では、転職者はどの世代が多いかを年代・性別で見ると、ミドル世代と呼ばれる30~50代の男性が全体の47.6%とほぼ半数を占めている。最多は30代男性の23.3%、次いで40代男性の15.8%である。ざっくり言えば、転職が違和感ない時代になったということだ。
転職理由および転職先を選択した理由は興味深い。転職理由で見ると、男性の1位は「給与が低かった」だが、女性の1位は「職場の人間関係が悪かった」である。男性の2位は「会社の将来性・安定性に不安」であり、女性の2位は「給与が低かった」となる。ここで会社を辞めた給与以外の理由が男女で大きく異なる点が興味深い。
新しい転職先を決定した理由は、男女ともに1位が「給与が良い」である。男性の2位は「希望の勤務地である」のに対し、女性の2位は「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」である。ここでも2位に大きな違いが生じている。
「給与」を別とすれば、部下や同僚が職場に留まるか去るかを見極める場合、何を重視しているか、経営者や管理職はこうした違いをしっかりと認識しておく必要がある。
ところで、お隣の国、韓国では一時期ほどではないが大学生の就職が厳しい状況は変わらないようだ。いろいろと調べて見ると興味深いことがわかる。
一般に、日本では就活において人柄や将来性を考慮した採用が多い。これに対し、韓国の採用は明確なスペックに基づく競争が中心という。数少ない大手の新卒枠を入るためには、例えばTOEIC800点以上、長期インターンシップの経験、会計士等の資格取得、大学の成績などなど...が必要になり、近年ではスペック・インフレとも言われている。
かつては日本と同様の終身雇用に近い形態の採用も多かった韓国だが、1997年のIMF危機以降、こうしたスペック重視の採用に拍車がかかったようだ。加えて大手と中小との給与の違いは日本よりはるかに大きい。その大手の採用枠に希望者が殺到するため、学生は入学直後から高スペックを備えるため必死になる。仮に運よく大手に入っても更なる上のスペックにアップするため社内競争が継続する。企業によっては40代で定年あるいは自主退社に追い込まれることもあるようだ。そうした親の姿を見て育った子供たちは益々必死に勉強する、という流れが少なからず継続している。
冷めた目で見ればどうか。人手不足の日本企業にすれば、短期的には同じ採用労力でより能力の高い学生を採用できる。一方、学生にしてみれば、日本語さえ一時期必死で習得してしまえば、実は日本企業の終身雇用や、福利厚生、そして長期的な社内での人材養成・教育システムなどは自国では稀な有難い仕組みである。
「給与」水準の影響は大きいとはいえ、日本の若い世代にとっては古く曖昧で具体性に欠けたように見える少し前の日本型経営は、自国での競争に疲れた外国人からは意外と好評かもしれない。もちろん、日本企業とて熾烈な国際競争の中で生き残るため甘いことは言えない点は同様である。問題は、日本の転職者や就活世代がこうした国際的な流れをどう受け止めているかであろう。
* *
当たり前のことですが、今や転職・就活市場での競争相手は国内だけではなく、高スペックを備えた海外の同世代...、ということですね。
[注1] マイナビ「転職動向調査2024年版(2023年実績)」、アドレスは、https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240312_71344/ (2024年7月30日確認)
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