ストップ高にならなかったコメ先物堂島コメ平均【熊野孝文・米マーケット情報】2024年8月20日
堂島取引所のコメ指数先物取引が8月13日に始まった。堂島取ではこの上場商品のことを「堂島コメ平均」と称しているので、今後、先物市場で形成される価格のことを堂島コメ平均と呼ぶことにする。本上場が認可され初めての取引となる堂島コメ平均の価格は、スタート限月の2025年2月限が1万7200円、4月限、6月限も同値の1万7200円になったが、翌14日には150円から190円値上がり、さらに15日には160円から180円値上がりして、2月限が1万7570円、4月限1万7540円、6月限1万7510円になった。
堂島取は取引が始まる前の8月8日にホームページ上に「米穀指数市場に関するお知らせ」と題して、取引開始時の「基準数値及び制限数値幅等」の価格を示した。それによると基準価格は、2025年2月限、4月限、6月限とも1万5240円で、これは2024年7月31日に公表した現物コメ指数1万5241円を呼値の10円単位にしたもの。値幅制限は取引所の業務規定にある発会日だけの特例として上下15%までの値幅制限になっているため、これを基準価格から価格換算すると値幅制限額は2280円になり、上値は1万7520円、下値は1万2960円まで広がる。
8月9日に都内で米穀業者が集まった席で説明に当たった堂島取は、この基準価格について触れたが、集まった米穀業者からは驚きの声が漏れた。なぜなら来年2月の価格とは言え、現在始まっている6年産の取引価格からするとあまりにもかけ離れているからである。実際、堂島取の説明会が終わった後の席上取引会では、千葉、茨城の新米コシヒカリが8、9月渡し条件で2万4000円で成約した。この成約価格は税別だが、堂島コメ平均は税込みであることが知らされ2度驚きの声があがった。コメの実情を熟知している当業者からすると上限価格の税込み1万7520円は"買い"の一手で、ストップ高が3回続いてもおかしくない。ところが実際にはそうはならなかった。冒頭に記したように取引開始から3日間は値上がりしたとは言え、14日からのストップ高の値幅制限は2%で額にして300円以内に収まっている。取引の手口を見ると13日の売人はSBI証券で各限月1枚ずつ、買い人は岡安商事で同じく1枚ずつ買って取引が成約した形になっている。15日にはそれぞれが反対売買して値付けをしており、これから想像するにストップ高にならないように当局の顔色を窺いながら売買を行ったというところなのだろう。良く言えば慣らし運転を行ったというところなのだろうが、8月20日には堂島の本拠地大阪でセレモニーが行われ、マーケットメーカーが参入するので出来高は一気に増え、売買が本格化するものと予想される。マーケットメーカー制度とは「専門の取引業者が継続的に売り買いの注文を提示することにより、流動性の一層の向上をはかり、約定がさらに成立しやすくする制度」と説明されている。
約定しやすくなると言っても一般投資家は別にしてコメの当業者が取引に参加するか否かに関しては?マークが付く。それ以前に試験上場中に商先業者に口座を開設していた当業者も今回のコメ指数取引では再度口座を開設しなければならず、さらには試験上場中に活発に行われていた産地銘柄を指定した合意早受渡しも指数取引では出来ない。何よりも先物市場で形成された価格と実際に現物市場で売り買いされるスポット価格の価格差が大き過ぎるのでヘッジに使えるのかさえ分からない。この原因は現物コメ指数算出のベースになっているのは農水省が毎月公表している相対取引価格だからである。農水省はこの相対取引価格をどうやって調べているかというと5000t以上の出荷業者から報告をとっているのだが、その報告は「契約時の価格」になっており、実際に売り買いした価格ではないので、昨年10月に価格を契約していればその価格が適用される。つまり相対取引価格は上がらないのが当たり前なのである。しかし、6年産の相対価格は驚くほど飛び跳ねると予測され、今年の場合、例年より1か月早く年産が切り替わるので9月の相対価格は驚くような高価格が公表されることになるだろう。堂島のコメ現物指数は毎月末に公表されるが、農水省の相対価格をベースにしている以上、9月の価格は飛び跳ねた価格になる。その価格で最終清算しなければならなくなると先行きの値下がりを見込んで売りヘッジしていた業者は大変なリスクを背負い込むことになる。こうしたもろもろの矛盾を早期に解決するには堂島取は早急に市場運営委員会を設置し、現物指数のあり方やさらには格付け専門部会も設けて、指定現物市場が現物の受け渡しをスムーズにできるように体制を整えるべきだ。
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