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令和の米騒動と備蓄米【小松泰信・地方の眼力】2024年8月28日

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「先日、そろそろ米を買わなければと思い、何軒かスーパーを回ったが、その光景に目を疑った。どこも売り場の棚は空っぽ。せいぜいパックご飯が一つか二つ残っている程度なのだ」で始まるのは、大阪府の主婦K氏から毎日新聞(8月27日付)によせられた投稿。

komatsu_honbun.jpg首相の命を無視する?農水相
 「南海トラフ地震への備えを求める『臨時情報(巨大地震注意)』が出されて以降、ミネラルウオーターはすぐに売り切れてしまったので、米も?と思ったが実は今、全国的に大変な米不足らしい。昨年の酷暑による不作で在庫が少ないうえに、あきれるのは農林水産省の施策だ。『米の需要が減っている』として、農家に補助金を出し、食用米から飼料用米などへの転換を進めている。政府は食料自給率を上げると言いながら、主食である米の作り手と供給を減らし海外への輸出拡大を重視している。矛盾もはなはだしい。新米の時期を迎えるが、このままの状態が続けば......巨大地震はもちろんのこと、明日の米がないことへの不安は一層切実だ」と続く投稿に、当コラムもまったく同感。

 時事通信(8月27日20時15分配信)によれば、岸田文雄首相は27日首相官邸で開いた食料安定供給・農林水産業基盤強化本部の席上で、品薄となっているコメについて「消費者の立場に立って、コメの流通不足の懸念に対処」するよう、坂本哲志農水相に指示した、とのこと。

 ところが、日本農業新聞(8月28日付)によれば、命を受けた坂本氏は、品薄状況は「今後、順次回復していく」との見方を示すとともに、政府備蓄米の放出については、民間流通への影響を踏まえ「慎重に考えなければいけない」と慎重な姿勢を示した。そして消費者に対しては、「落ち着いた購買行動をお願いしたい」と呼びかけている。

 首相の命に逆らうほどのポリシーがあるのか、それとも近日中に一兵卒となる首相への忠誠心がなくなったのか、興味深い反応ではある。

コメ政策を見直す機会
 「流通現場でコメの不足感が広がり、値上がりしている」で始まるのは、6月15日付の信濃毎日新聞の社説。

 「産地と卸売りの相対取引を見ると昨年より1割ほど高く推移。小売りでは、来店客に大量購入を控えるよう呼びかける張り紙を出したスーパーもある」ことを紹介し、「消費者に不安が広がり、買いだめに走る人が増えれば流通の混乱は避けられないだろう。主食のコメが入手困難になる事態は防がねばならない。一人一人が冷静な対応を心がけたい」と、今回の「令和の米騒動」を予見していた。

 加えて、「稲作農家は近年、高齢化に伴う離農が急速に進む。値崩れ防止に力を入れるだけでは生産基盤が維持できず、やがて自給率向上どころではなくなるだろう」として、「コメ政策を見直す機会と受け止めるべきではないか」とコメントしている。

 京都新聞(8月21日付)の社説も、「京都や滋賀のスーパーでも売り場からなくなったり、値上がりしたりする状況が目立つ」ことを伝え、「思わぬ『異変』を機に国内の食と農業の基盤をなすコメの安定供給のあり方を見直す必要があろう」とする。

 「人口減により需要は確実に減っていく」との将来見通しのもと、国が「飼料用作物や麦・大豆への転作を農家に奨励したり、米価の値崩れを防ぐため事実上の減反である自主的な生産調整を促している」ことから、「08年産で865万トンあった収穫量は23年産では高温の影響もあり661万トンまで落ち込んだ」として、「異常気象や自然災害の頻発、訪日客や輸出向けの需要拡大を十分に織り込む」ことを訴える。さらに、「コメ作りの将来は、食料自給や国土保全のリスクにもつながるだけに、持続可能な政策かどうか幅広い視点」での再検討を求めている。

 日本農業新聞(8月26日付)の論説も「長期的な視点で稲作経営を展望できる持続可能な施策が必要だ」と訴える。その具体的背景として、「西日本の産地では『生産力が落ち、生産目安を示しても、もはやそれに届かない』と切実な声が上がる」「担い手への農地集約が進むも、生産力や農地の維持は難しくなっている」「生産者側にとっても米はもうからない品目となり、若い後継者の確保は難しい」などをあげ、財政負担を強調することなく「窮地に陥る水田農業をどう維持するか、大局的な視点に立つ必要がある」と締める。

苦しむ家計と政府の責任
 神戸新聞(8月18日付)の社説は、「コメの品薄感が全国で広がり、スーパーなどの店頭価格は1.5~1.7倍値上がりしている。物価高に苦しむ家計にはさらなる打撃となる。国は適正な生産量を見極め、安定供給と生活の安心確保に努めるべきだ」とし、「気候変動に伴う異常気象やインバウンド増加を一過性とせず、生産量にどう織り込んでいくかが今後の課題だ」とする。

 しんぶん赤旗(8月27日付)の主張は、「米の収穫は基本的に1年に1回です。気象条件による生産の増減や、社会情勢、経済情勢の変化により需要と供給にギャップが生まれるのは避けられません」としたうえで、「わずかの需給変化で米流通の混乱が発生し、価格が乱高下する現状は、米を市場にゆだねることの危険性を改めて示すものです」と警鐘を鳴らす。

 そして、「多少の不作や需要増でも不足しないようゆとりをもって生産量や備蓄を確保する」「豊作などで供給が上回った場合には国が買い上げ備蓄に回す」ことを提言している。

 その論拠は、国民の「主食」である米の需給と価格安定に責任を持たねばならないのは、「政府」だからである。

本当に備蓄米はあるのか?!
 農水省のHPで食料安全保障のコーナーを覗くと、「国民に対する食料の安定的な供給については、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせることにより確保することが基本です」と記されている。

 平成六年法律第百十三号「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の第二条には、「政府は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、(中略)米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営及び消費者が必要とする米穀の適正かつ円滑な流通の確保を図る(後略)」と明記されている。この法律を知らないとは言わせない。

 ゆえに今般の米騒動は、「備蓄米」を放出しない政府の不作為による「政災」と言わざるを得ない。 

 有事に備えての備蓄米を、この「食料供給困難事態」に及んで放出しない政府に有事を語る資格なし。それとも、どこぞの独裁国家のように、「横流しをして備蓄米は存在しない」なんてことはないだろうな。本当にあるなら、可及的速やかに放出せよ。

 「地方の眼力」なめんなよ

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