【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】ついに牛乳も消え始めた?~メンツのために「不足」を認めない愚2024年8月30日
生産現場の疲弊を顧みずに、「余っている」と言い続け、減産要請(水田潰せ、牛殺せ)、低価格、赤字の放置、備蓄運用をしない、といった短絡的な政策が、「コメ不足」「バター不足」を顕在化させた。それでも、メンツのために「不足ではない」と言い張り、傷口を広げてしまっている。
特に、今、「コメ不足」が大問題になっているが、ついに、「飲む牛乳も消え始めたのか?」と心配される写真を福岡の知人からいただいた。
今こそ国内の生乳生産を増やし、危機に備えて国民の命を守る体制強化が急務のはずだ。だが、酪農家は、飼料価格も肥料価格も2倍近く、燃料5割高が続いて赤字は膨らんでいる。さらに、国が「余っているから、牛乳を搾るな。牛を殺せ」というのでは、まさに「セルフ兵糧攻め」だ。生産を立て直して自給率を上げなければならないときに、みずからそれをそぎ落とすような政策をやってきた。
他の国は逆だ。コロナ危機で在庫が増えたのは、買いたくても買えない人が増えたからであって、実際には足りていない。だから農家には頑張って増産してもらい、それを政府の責任で子ども食堂やフードバンクに届け、国内外に人道援助物資として届ける。そのように出口(需要)を政府が創出し、消費者も農家もともに助ける政策への財政出動を各国はやっている。米国・カナダ・EUでは、設定された最低限価格で政府が乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持している。
日本が国内在庫を国内外の援助に使わないのはなぜか? かつて国士といわれた農水大臣が周囲の反対を押し切って脱脂粉乳の在庫を途上国の援助に出したが、アメリカの市場を奪ったとして逆鱗に触れたとの説がある。彼はもうこの世にいない。そのため、政治行政の側には農家や国民の心配よりも自分の地位や保身の心配ばかりしている状況がありはしないか。
日本だけは、酪農では「脱脂粉乳在庫が過剰だから、ホルスタイン1頭処分すれば15万円払うから、4万頭殺せ」などという政策を打ち出した。そんなことをやれば、そのうち需給がひっ迫して足りなくなるのは当然で、そのときになって慌てても牛の種付けをして牛乳が搾れるようになるまで少なくとも3年はかかる。そして、すでにバターが足りないといい始めた。
そもそも、2014年のバター不足で、国は増産を促し、農家は借金して増産に応じたのに、今度は「余ったから搾るな」と2階に上げてハシゴを外すようなことをやる。不足と過剰への場当たり的な対応を要請され、酪農家は翻弄され、疲弊してきた歴史をもう繰り返してはならない。酪農家が限界に来ている。
牛は水道の蛇口でない。時間のズレが生じて、生産調整は必ずチグハグになる。生産調整、減産をやめて、販売調整、出口対策こそ不可欠だ。増産してもらって、国の責任で、備蓄も増やし、フードバンクや子供食堂にも届け、海外支援にも活用すれば、消費者も生産者も、皆が助かり、食料危機にも備えられるのに、それを放棄した。
不足が明らかになってきても、「減産要請したのに簡単に方向性を変えたら、こけんにかかわる」かのように、減産要請を続け、バターの輸入を増やして対応した。そして、ついに、飲む牛乳さえも不足し始めたのかと心配される状況だ。
2023年1月23日のクローズアップ現代など、NHKも「酪農の疲弊を放置すれば、お子さんに牛乳が飲ませられなくなる事態が近づく」と何度も報道してくれた。ついに、それが現実味を帯びてきた。役人のメンツのために農家と国民、子ども達を犠牲にしてはならない。
重要な記事
最新の記事
-
日本人と餅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第331回2025年3月7日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
-
(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
-
「とやまGAP推進大会」に関係者約70人が参加 JA全農とやま2025年3月7日
-
新潟県産チューリップ出荷最盛期を前に「目合わせ会」 JA全農にいがた2025年3月7日
-
新潟空港で春の花と「越後姫」の紹介展示 JA全農にいがた、新潟市2025年3月7日
-
第1回ひるがの高原だいこん杯 だいこんを使った簡単レシピコンテスト JA全農岐阜2025年3月7日
-
【スマート農業の風】(12)ドローン散布とデータ農業2025年3月7日
-
小麦ブランの成分 免疫に働きかける新機能を発見 農研機構×日清製粉2025年3月7日
-
フードロス削減へ 乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズ発売 農業総研×NTTアグリ2025年3月7日
-
外食市場調査1月度市場規模は3066億円2019年比94.6% コロナ禍以降で最も回復2025年3月7日
-
45年超の長期連用試験から畑地土壌炭素貯留効果を解明 国際農研2025年3月7日
-
日本赤十字社のプロジェクト「ACTION!防災・減災」に参加 コープみらい2025年3月7日
-
健康増進へ野菜摂取レベルなど競う企業対抗企画 タキイ種苗が優勝2025年3月7日
-
フルーツピークス横浜ポルタ店2周年記念 いちごの超豪華パフェや感謝価格のタルト登場2025年3月7日
-
EVトラックの最適充電マネジメントシステムサービスを提供開始 グリーンコープ生協くまもと2025年3月7日
-
「金芽米」活用で市職員の花粉症予防・改善にチャレンジ 大阪・泉大津市2025年3月7日
-
台湾へのイチゴ輸出を本格化 JAかみましき2025年3月7日
-
道の駅「明治の森・黒磯」で「手塚さんちの長ねぎドレッシング」新発売2025年3月7日
-
鳥インフル 米デラウェア州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年3月7日