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全国知事会の矜持と意地【小松泰信・地方の眼力】2024年9月4日

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8月1日、東京一極集中や人口減少による地方の、そしてこの国の先行きに強い危機感を有する全国知事会は、「地方創生・日本創造への提言」(以下、「提言」と略)をとりまとめた。8日には政府・自民党への要請活動も行った。

komatsu_honbun.jpg被災地の復興なくして地方創生なし
 「提言」の前文の最後には、「地方が、将来にわたって成長力を確保し、また、出生数増加による人口構造の若返りを図りながら、地方それぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指し、自ら率先して地方創生に取り組む方向性を示すものであり、併せて、国に対しては、(中略)地方の実情に応じた取組みに対する支援を求めるものである」と、決意と願いが記されている。

 「Ⅰ 人口減少対策を要とした地方創生の実現に向けて」と「Ⅱ デジタル田園都市国家構想の実現に向けて」の2部構成。

 Ⅰでまず注目したのは、「4 魅力的な地域づくり」。

 (若年世代の定着促進)の項では、「地方部の国立大学は、地元の若者の進学意欲に応える受け皿であるだけでなく、都市部の若者の受入れにもつながることから、定員増を弾力的に認めるとともに、国立大学法人運営費交付金の充実及び安定的な配分を図ること」を求めている。その実情を知るものとして、首肯できる内容である。

 (大学や企業の本社機能等の分散)の項では、「国は、地方部の人口流出を緩和するため、大学、企業の本社機能や研究開発部門等の地方部への分散を促進するとともに、(中略)政府関係機関等の分散を推進するなど、経済機能や雇用機会の大都市部への偏在を是正すること」を求めている。そして、「地方拠点強化税制」(企業が、拠点の全部もしくは一部を都市圏(東京23区)から地方へ移転したり(移転型)、地方の拠点強化を行なった場合(拡充型)に、都道府県の認定を得た上で税額控除等を受けることができる制度)についても、更なる制度の拡充を図ることを求めている。

 次に注目したのは、「6 当面する広域的重要課題への対応」である。

 (国の司令塔組織の設置)の項では、「 深刻化する人口減少問題に、国が責任を持って戦略的に挑戦するため、(中略)国において政策を統括推進する司令塔の設置や地方との適切な役割分担により、強力に推進すること」に提言している。

 (被災地域における地方創生、復興後のまちづくりのあり方)の項では、「国は地方と連携し「被災地の復興なくして地方創生なし」の考え方のもと、(中略)地域の基幹的産業の復興促進等により安定した雇用を確保すること」を求めている。

 さらに、(防災対策の構築)の項では、地方が行う防災対策の取組みに対して、必要な支援をすることを国に求めるととに、「平時と災害時を区別しない「フェーズフリー」の考え」にたった備えの強化を提言している。

「デジタル」は地方創生の一手段  
 全国知事会の矜持と意地が伝わってきたのはⅡの「2 デジタルのみにとらわれない包括的支援」である。

 そこではまず、「 地方創生にとって「デジタル」は一つの手段であって、デジタルにより課題がすべて解決するわけではない。効率性が追求されることにより、画一化、コミュニケーションや創発の場の不足という懸念もある」とズバリの指摘がなされている。その理由として、「 地方はこれまで対面における人と人の触れあいが不可欠な施策など、それぞれが直面する現実に即して、デジタル以外の方法も含め、あらゆる工夫を凝らして着実に取組みを進めてきた」ことをあげ、国に対して、デジタル一辺倒ではなく、対面重視の施策の継続・拡充を図ることをおろそかにすることがないようにクギを刺している。

  さらに、 デジタル化の推進に併せて考慮すべき事項として、「生身で感じる「快適さ」「安らぎ」「創造性を刺激する環境」」といった、人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)全般に関わる、「効率性では測ることのできないその土地ならではのリアルな価値」をあげる。 これらを含むその土地ならではのリアルな価値が、デジタルと融合することで、より高い価値への変革を目指す、いわゆるLX(ローカル・トランスフォーメーション)が実現され、地方が持続可能な地となっていく必要があることを強調している。

 LXの評価や実現可能性について、にわかに判断はできないが、地方ならではの「生身で感じる「快適さ」「安らぎ」「創造性を刺激する環境」」の大切さを示している点は評価しなければならない。

地方が団結し、国に働き掛ける
 山陽新聞(8月31日付)の社説は、全国知事会の提言について、「こうした指摘が出るのは、国が10年間進めてきた地方創生の成果が乏しく、地方の人口減少や一極集中が加速している現状の裏返し」と指摘し、「国に新たな司令塔組織を設置して地方と役割分担しながら政策を再構築して強力に推進する」という提言にエールを送る。

 デジタルを前面に掲げることに疑問を呈し、「生身で感じる「快適さ」「安らぎ」「創造を刺激する環境」など効率性では測れない、その土地ならではのリアルな価値を考慮すべきだとした」ことを評価し、「デジタルのみにとらわれない、本来の地方創生に戻すべきである」と訴える。

 さらに、「大学、企業の本社機能や研究開発部門などの地方への移転と、政府機関などの地方分散」を「国家戦略と位置づけて抜本強化することを求めた」ことにも注目する。なぜなら、それらは、「もともと地方創生の中核的な取り組みとして国が打ち出しながら、中途半端なままで見るべき成果がない状態が続いている」からだ。「特に企業の本社機能が東京に集中していること」を「一極集中の大きな要因」とし、その是正を対策の核心と位置付ける。「地方拠点強化税制」の拡充についても、「法人税で大都市との差を設けて地方を優遇するといった本格的な制度改革が必要」とし、地方が団結し、国に働き掛けることを提言する。

「ともに闘う知事会」への期待
 9月1日付の地方紙の多くが、全国の都道府県知事、市区町村長に共同通信社が行ったアンケート結果から、「人口減少克服と東京一極集中の是正を目指す地方創生について、自治体の68%はこの10年間の取り組みの成果が不十分と受け止めている」こと、そして不十分の理由として、「自治体単独での対策には限界があった」が73%で最多であることを伝えている。

 全国知事会の提言は、市区町村長の認識とも齟齬がない。外堀が埋まっている今、「ともに闘う知事会」がリーダーシップを取って、国や市区町村と真正面から向き合い、「地方それぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指し、自ら率先して地方創生に取り組む」ことなしに、地方に明るい未来は訪れない。

 「地方の眼力」なめんなよ

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