切り花の寿命をのばす【花づくりの現場から 宇田明】第42回2024年9月5日
前回紹介したように、8月はお盆で、切り花の消費がもっとも多い月。
一方では、高温で、切り花の日持ちが短くなり、クレームがもっとも多い月。
消費を拡大するためには、日持ちの低下を防ぐことが重要です。
生き物には寿命がある。
象は長く、鼠は短い。
かげろうは朝に生まれ、夕べに死す。
これは、神さまが決めたとしかいいようがない。
天寿。
切り花にも天寿があります。
日持ちをのばすには、天寿を全うできない要因をとりのぞくことです。
その要因とはなにか?
人間と同じ、次の5つ(表)。
老化、病気、栄養、環境、事故。
このうち本命は「老化」。
生き物の宿命。
生まれた瞬間から老化(成熟)がはじまり、死へと歩みつづける。
それは一方通行で後戻りはできないが、歩みのスピードを遅くすることはできます。
人間でいうアンチ・エージング。
人類の悲願は、老化促進物質を見つけること。
その働きを止めれば、永遠の生命が得られる(はず)。
植物生理学者はそれを見つけました。
植物(人類でないのは残念)の老化を促進しているのはエチレン。
エチレンは不思議な物質。
炭素(C)2つ、水素(H)4つ(C2H4)のきわめてかんたんな化学物質。
エチレンでまっさきに思いうかぶもの。
ポリエチレンやプラスチックなどの石油製品の材料。
タンクがならび、パイプが走る石油コンビナート。
そのエチレンが植物を老化させているのです。
切り花では、花を萎れさせ、日持ちを縮めています。
老化を別のことばで表現すると、「成熟」。
青いみかんが黄色くなるのも、青いトマトが赤くなるのも「成熟」=「老化」。
それがエチレンの働き。
完熟したバナナ(黄色いバナナ)は害虫の関係で輸入できません。
そのため、まだ青いバナナを輸入し、港の倉庫でエチレンガスにより一気に成熟(黄色いバナナ)させています。
なぜエチレンが植物老化ホルモンであることがわかったのか?
20世紀初頭、英国の街灯。
当時の街灯はガス。
英国の温室で栽培していたカーネーションの花が萎れる症状が多発。
「ねむり症(sleeping)」とよばれていました。
1908年にCrockerとKnightが調べたところ、管から漏れたガスが原因でした。
ガス成分のエチレンで、カーネーションの花が萎れることがわかりました。
実際に、0.5ppmのエチレンを12時間与えると、花は完全にsleepしました。
1950年ごろの長野県。
カーネーションを東京に出荷するには国鉄の貨車。
東京に着いたカーネーションがsleepして萎れ、開花しません。
原因は貨車に積み合わせたリンゴからでたエチレン。
ではエチレンはどこに存在するのか?
①街灯の照明ガスやリンゴのようなエチレン発生源
「外生(がいせい)エチレン」。
空気中にある微量のエチレン。
果物のほかに、クルマの排気ガス、タバコの煙、古い石油ストーブ・・。
腐りかけの葉や茎。
くわえタバコの花屋、
床に葉や茎が散らかり放題の花屋、
それらはエチレンの発生源、切り花の日持ちを縮めています。
プロとしてありえない。
②植物体内でつくられる老化ホルモン
「内生(ないせい)エチレン」
これが老化の本命。
外生エチレンは、内生エチレンの触媒として働くので、外生エチレンが多いほど、内生エチレンが多くつくられます。
植物体内でどのようにエチレンがつくられるのか?
植物生理学者の詳細な研究で明らかになっています。
ざっくり説明すると、アミノ酸の一種である「メチオニン」からさまざまな酵素の働きでエチレンがつくられます(Yang 1987)。
植物体内で、エチレンがつくられないようにすると、老化を止めることができ、切り花の日持ち(寿命)がのびるはずです。
次回は、エチレンの生成を止め、切り花の日持ちをのばす方法を紹介します。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(133)-改正食料・農業・農村基本法(19)-2025年3月15日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(50)【防除学習帖】第289回2025年3月15日
-
農薬の正しい使い方(23)【今さら聞けない営農情報】第289回2025年3月15日
-
イタリア旅行の穴場【イタリア通信】2025年3月15日
-
政府備蓄米 初回9割落札 60kg2万1217円 3月末にも店頭へ2025年3月14日
-
【人事異動】JA全共連(4月1日付)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年3月14日
-
(426)「豆腐バー」の教訓【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月14日
-
実需者と結びつきある飼料用米 支援継続を 日本農業法人協会2025年3月14日
-
オホーツクの恵み 完熟カボチャからフレークとパウダー JAサロマ2025年3月14日
-
日本一の産地の玉ねぎがせんべいに 産地の想い届ける一品 JAきたみらい(北海道)2025年3月14日
-
みおしずくがクッキーに 日野菜漬はふりかけに JAグリーン近江(滋賀県)2025年3月14日
-
地域の歴史受け継ぎ名峰・富士の恵み味わう かがり火大月みそ JAクレイン(山梨県)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全厚連(4月1日付)2025年3月14日
-
高まるバイオスティミュラント普及への期待 生産者への広報活動を強化 日本バイオスティミュラント協議会2025年3月14日
-
岩手県大船渡市大規模火災での共済金手続きを簡素化 JA共済連2025年3月14日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第107回2025年3月14日
-
3月14日は「蚕糸の日」 大日本蚕糸会2025年3月14日
-
種苗・農産物輸出の拡大に向けた植物検疫のボトルネック解消「農研植物病院」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年3月14日
-
【役員人事】農中信託銀行(4月1日付)2025年3月14日