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【地域を診る】農村地域再生の視点 効率優先で被災地の生活見えず 能登復興プラン届かぬ住民の声 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年9月13日

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地域に何が起きているのか、長く地域経済を研究してきた京都橘大学教授の岡田知弘氏のシリーズ。今回は「農村地域再生の視点」として〝鳥の目〟と〝蟻(あり)の目〟から探ってもらった。

京都橘大学教授 岡田知弘氏.jpg京都橘大学教授 岡田知弘氏

日本の地域経済学の草分けである宮本憲一さんは、鳥の目だけでなく蟻の目でとらえる必要があると、私たちに語りかけてきた。鳥になって日本を俯瞰(ふかん)的な視点で見れば、『日本列島改造論』のような「成長のための国土の効率的利用」といった発想が出てくる。そこでは、日本一国レベルでの経済成長が主たる関心の的となる。しかし、蟻の目、つまり土の上で生活する住民の視点にたつと、「成長」の背後にある、土壌や河川、海の深刻な汚染、農林業の衰退にともなう過疎地域の広がり、社会生活の不便さといった、人間と環境に関わるあらゆる問題の持続性が前面にたってくる。しかも、それらの問題は、人間の生活の場である地域において密接不可分につながり合っている点が重要である。

たとえば直近の米不足問題について、相変わらず、日本の農業の生産性は低く、担い手は少なくなる一方なのでスマート農業を推進し、生産性を上げるべきだというエコノミストのコメントが見られる。この議論も、限られた指標だけにとらわれた鳥の目からのものだ。

蟻の目で見ると、そんな単純なものではないことがわかる。コロナ禍の下、ある平場の水田農業集落を調査したことがある。集落営農を母体にした法人で話を聞くと、スマート農業の補助金を活用して、ごく限られたオペレーターで稲作をやっているという。彼らの平均年齢は70歳を超える。10年後の見通しはどうかと尋ねると、今の通勤兼業農家は退職年齢が伸びており、帰農してオペレーターをするのは無理という答え。40戸あまりの集落の「土地持ち非農家」の高齢住民は農地から切り離されて、狭い家庭菜園をやりながらゲートボールをしたり、病院通いをしており、あまり元気がないという。しかも、この法人は、米価が下がっているため、補助金を差し引くと実質赤字経営であった。農地の一部経営体への集約化によって、例え一人当たり生産高という指標での「生産性」は数字上高まったとしても、農業経営体としての持続性だけではなく、集落の人々の健康な生活も農村としての持続性も覚束(おぼつか)なくなるのではないかという強い懸念を抱いた。

自由貿易推進という通商政策の従属物として、この間の低米価政策、「減田」政策、米販売や農業関連市場の自由化が遂行されてきた。その大枠のなかで「規模の経済」論を機械的にあてはめた結果、農業生産の場だけでなく住民が生活する農村地域社会の持続可能性が奪われ、鳥獣害や風水害が起こりやすくなっている地域が、平場でも広がっているのである。中山間地域の集落は、さらに深刻な事態となっている。これは、能登半島地震被災地に典型的に表れている。

多くの農家は、兼業や年金収入によって現金収入を得ながら、集落での共同作業を行って生産や生活に必要な里山や林、水を管理し、さらに食料や食品の交換という現物経済によって助け合いながら生きて来た。時には祭りや伝統芸能で楽しみも分かちあってきた。そのような生活を送るための健康な生活の基盤に、農作業や山仕事があった。その作業や空間を奪うような大規模な農業経営体づくりやスマート農業を導入するよりも、健康づくりやコミュニティーづくりの観点から日々農作業ができる多様な農業や農村集落づくりをした方が、はるかに効果的に地域社会の持続性が実現できるといえる。

そのような蟻の目からみると、石川県が6月に策定した「創造的復興プラン」がとても気になる。ひとつは、石川県の被災地全体を金沢の県庁から鳥の目で捉えている点である。同プランの策定には、被災地地元の代表者は入らず、もっぱら国と県の官僚が策定しており、被災地の多様性を認識せず、国土交通省、農林水産省、経済産業省等の省庁縦割りの施策メニューが並んでいる。しかも、このプランの前提は、前年に策定された「石川県成長戦略」であり、復興プランの期間はその残期間である9年となっており、あくまでも県成長戦略が中心となっている。

さらに問題なのは、「リーディングプロジェクト」の最初にでてくるのが、「二地域居住モデル」等の「関係人口の拡大」である点だ。現に被災して避難所生活や仮設住宅暮らしをしている被災者の生活や農林漁業の復旧、復興を集落としてどのようにしたらいいのかという展望を読み取ることはできない。

「二地域居住モデル」は、2004年の中越地震でも示された施策であるが、旧山古志村の住民たちは、これを拒否して、仮設住宅生活を通して山村の暮らしの価値を再評価し、集落ごと、旧村ごとの生産・生活・防災計画をつくりあげた。4年後には7割の住民が帰還している。まさに、住民主体の蟻の目による再生である。

いま、珠洲市でも集落ごとの復旧・復興計画づくりに取り組んでいる。それをもとに、12月には市の計画が策定されるという。ぜひ、注目したい。 

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