【浜矩子が斬る! 日本経済】「気掛かりな『貯蓄から投資へ』礼讃論」 家計リスク高めは健全なのか2024年9月20日
2024年度の経済財政白書の分析について、どうも気になる新聞報道が目を引いた(24年9月11日付日本経済新聞朝刊)。「株高→消費増 より鮮明に」という見出しの記事である。ポイントは2点だ。第一に、人々の金融資産構成がいわゆる「貯蓄から投資へ」の方向に変化している。第二に、金融資産構成の一角を占める株式や投資信託の評価額の上昇が、人々の消費を押し上げる効果が強まっているのだという。
エコノミスト 浜矩子氏
「貯蓄から投資へ」は、この間、政府が一貫して掲げ続けて来たスローガンだ。日本人は現金や預貯金が好き過ぎる。こういう形で国民がカネを貯め込み過ぎるから、企業に資金が回らない。資本市場が活況を呈しない。日本人はもっと株や投資信託商品を買わなければいけない。謹厳貯蓄から積極投資にかまえを変える必要がある。こういう風に国民を叱咤激励し続けて来た。遡れば小泉政権以来のことだが、2012年末の安倍政権誕生とともに、この呼び声が一段と高まった。
ここで一言注釈というか注文を付けておけば、厳密にいうと「貯蓄から投資へ」という言い方はおかしい。本来、貯蓄と投資は経済全体のバランスがどうなっているかを見るための概念だ。経済全体として貯蓄と投資が等しい関係になっているのか。それとも、貯蓄超過あるいは投資不足に陥っているのか。この関係をみるためのツールが貯蓄であり投資なのである。
つまり、貯蓄も投資も、個別家計あるいは個人の資産構成の中で、リスクの低い現預金やリスクの高い株式や投資信託商品がどのような割合を占めているか、ということをみるための道具ではないのである。預貯金であろうと株式であろうと、金融資産は金融資産であり、これらを保有する行動は貯蓄行動なのである。筆者は「貯蓄から投資へ」の掛け声が出始めた当初から、この点が気になって仕方が無くて、問題を指摘し続けて来た。この執念深い努力も空しく、いつわりの「貯蓄から投資へ」はすっかり市民権を得て独り歩きしてしまっている。なかなか腹立たしい。
とまぁ、うっぷんを晴らしたところで話を先に進めよう。アホノミクスの大将の下での大号令に煽られて、「貯蓄から投資へ」が2013年以降に顕著に進行したことは事実だ。小額投資非課税制度(NISA)が導入されたことも、後押し要因になった。特に若年層において変化が顕著だ。20歳代世帯についてみると、2013年の段階では、現預金からリスク性商品へと資産構成を振り向けた世帯の割合が3.0%だった。この割合が、23年には18.7%に上昇しているのである。他の世代においても、総じて「貯蓄から投資へ」の資産構成変化がみられる。
第二のポイントに目を向けよう。株高や他のリスク性商品の評価額上昇が、消費を押し上げる傾向が強まっているという点だ。経済財政白書の統計分析によれば、2013年以降において、リスク性商品の評価額増が消費増をもたらすという効果が高まっていることが検証された。これがいわゆる「資産効果」というものだ。さらには、この「資産効果」がどのような消費財の購入増につながる傾向を示しているかについても、分析されている。その結果は、資産効果は「選択的支出」(贅沢品の購入)に向けられる傾向が強く、「基礎的支出」(必需品の購入)を上回ることが解った。
一連の分析結果を踏まえて、経済財政白書は、今後において「家計から企業へのリスクマネーの供給は、企業の成長に向けた投資を促すとともに、資産効果を通じて、消費の活性化に結びつくことが期待される」と締め括っている。
こういうことでいいのか。家計の資産構成がリスク度を高める。リスクを取ることで手に入れた「資産効果」が人々を贅沢品の消費増へと押しやる。しかも若年層においてそうなっている。これが本当に健全な経済の姿だと言えるのか。疑問が残る。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日