切り花の寿命をのばす 銀の安全性【花づくりの現場から 宇田明】第44回2024年10月3日
銀は、植物の老化ホルモンであるエチレンの生成と活性を抑制します。
この特性を利用して、切り花に銀錯塩(チオ硫酸銀錯塩;STS)を吸わせると、寿命(日持ち)を劇的にのばすことができます。
STSの製造・販売および切り花への使用は、法的な規制がありません。
さらに、水道水や排水に対しても銀は規制されていません。
しかし、花は食べるものではないからといって、安全性を無視することはできません。
今回は、世界中で切り花の品質保持剤(切り花延命剤)として使われているSTSの安全性について検証します。
STS剤の主成分である銀の安全性については、さまざまな観点から検証されています。
銀は貴金属としてだけでなく、食器、医薬品、歯科医療材料、口中清涼剤、飲料水やプールの消毒など、多岐にわたる用途で利用されています。
例えば、赤ちゃんの夜泣きの薬やシニアの口中清涼剤は、生薬を銀でコーティングしたものです。
また、歯科医療材料、いわゆる銀歯やブリッジとしても長年利用されています。
海水には0.28ppbの銀が含まれています。
そのために、カキやハマグリなどの貝類には10~100μg/新鮮重100g、昆布には50μg/乾物重100gの銀が含まれています(表)。
日本人は、銀を含む貝類や海草類を日常的に食しています。
その結果、成人男性では1日当たり約70μgの銀を摂取していると推定されています(日本食品分析センター、1993年)。
しかし、銀が原因と考えられる障害は認められていません。
ちなみに、STSで処理したカーネーション切り花には、新鮮重100gあたり340μgの銀が含まれています(切り花1本には約100μg)。
銀はエチレン阻害剤でとしてだけでなく、低濃度で持続的な効果がある抗菌剤としても注目され、多くの商品に使用されています。
例えば、洗濯機や冷蔵庫などの家電製品、電車の吊り輪や携帯電話などのプラスチック製品、靴下や下着などの衣料品、台所や浴室、トイレなどの防黴剤などには銀が含まれており、かびやバクテリアの増殖を抑制しています。
以上のようなさまざまな形態で利用されているのは無機の銀です。
水俣病で経験したように、無機水銀では体内にとりこまれることが少ないのに対して、有機水銀では容易に吸収され、中枢神経疾患などを引き起こします。
銀も、有機化合物になれば人体に吸収され、障害が発生する可能性があります。
しかし、銀では有機金属化合物は報告されておらず、自然界では容易に有機化しないと考えられています。
では、STSそのものの安全性はどうでしょうか。
環境保全の先進国であるオランダではSTS剤の製造、販売にあたって国際基準(OECD)に基づいた健康や生物系への影響について試験をし、安全性を確認しています。
また、オランダの花市場は生産者の協同組合組織であり、生産者に対する強い指導力と拘束力をもっています。
そのため、切り花の日持ちを担保するために、多くの切り花に対して出荷前にSTSで処理することが義務づけされており、違反した切り花は出荷できません。
STSは切り花の寿命をのばす劇的な効果があり、世界中でつかわれていますが、それだけに常に安全性について十分に配慮する必要があります。
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