売り玉が急増したクリスタルライスの取引会【熊野孝文・米マーケット情報】2024年10月8日
10月2日に開催されたクリスタルライスの取引会。売りメニューとして提示された数量は13万俵にもなった。この数量は前回の4倍以上、前年同期比でも3倍以上の数量になる。ただし、売り唱え価格は加重平均2万6838円で高止まりしたままである。この価格で最小の取引単位である1車(200俵)動かすと500万円以上の取引になる。集荷する側の資金繰りも大変だが、購入する側もリスクも大きく、スーパーに白米を卸している小規模卸の経営者は「ドキドキ感が止まらない」と言っている。
表はクリスタルライスの取引会の上場概要で、主だった銘柄の上場価格を示したものだが、個々の産地銘柄の価格を示すと青森まっしぐら2万5700円~2万6750円、宮城つや姫2万6700円~2万7900円、秋田あきたこまち2万6900円~2万8350円、山形はえぬき2万6300円~2万6500円、雪若丸2万7300円~2万7700円、会津コシヒカリ2万7100円、中通コシヒカリ2万6200円~2万6700円、茨城にじのきらめき2万5850円~2万6150円、栃木とちぎの星2万5400円~2万6700円、千葉ふさこがね2万5600円~2万5850円、新潟魚沼コシヒカリ2万9600円~3万1000円、新之助2万9300円といった具合。
取引会後の卸の反応は売り玉がこれほどまでに増えたことに驚いていたが、これだけの売り物があっても価格が下がらないことにも同じように驚いている。大手卸の中には、全国各地にある自社精米工場に荷受けに困るほどの新米が運ばれてきており、保管場所が確保できないことから買い止めしているというところもある。これは農水省が詳しくデータを集めて公表している6年産米の流通状況を見てもはっきりわかる。6年産米の集荷業者から卸への販売数量は昨年に比べ約2倍の量に達している一方、スーパーでの精米販売量は9月20日以降急ブレーキがかかっており、在庫が膨らんでいる。コメの消費が減退し始めたのは家庭用精米だけでなく、中食・外食など業務用米の世界でも起きている。
大手外食チェーン店でもご飯の売価を値上げするところや持ち帰り総菜店でも人気メニューであった大きなおにぎりを小さくするところも出始めるなどコメの節約が始まっている。年間1万3000tものコメを使用する大手外食企業は、来春のグランドメニュー改定の際は「ごはんメニューを減らす」と明言している。この外食企業が仕入れているパスタの価格は㌔130円であり、コメを使用するメニューの3倍の利益がある。パスタは輸入関税が引き下げられゼロになるほか輸入小麦の売却価格が引き下げられており、コメに比べ益々有利な競争条件が政策的に導入されている。さらには右肩上がりで販売量が増加しているパックご飯も各社が一斉に値上げすることを表明しており、値上げによる売れ行き減少も懸念される。平成5年のコメパニックの後に起きたことが令和のコメ騒動の後でも同じことが起きる兆しが出ている。価格上昇によるコメの消費減がどの程度になるのかは今後の相場動向に影響を与えるが、それ以外にも相場動向に影響が強く出る事案がある。
今後のコメの相場動向を予想するうえでコメ業界が最も注目しているのが、今月中旬に公表される6年産主食用米の収穫予想で、この数量がどの程度になるのかに関心が集まっている。6年産米の作付け動向については農水省がまとめ公表した6月末時点の意向調査では飼料用米の作付けが減少する県が42県にのぼったのに対して主食用米が増加する県が16県になっている。米穀業者の中には飼料用米の生産が多い茨城や栃木、東北各県では飼料用米から主食用米への作付け転換面積が多いことから、この分の増産によりトータルで30万㌧増になり700万㌧を超えると予想しているところもある。それに加えSBSで輸入される外国産米も枠いっぱいの10万㌧が輸入されることになると見ており、供給量が大幅に増えると予想している。ただ、農協系統組織はそれほどまでに主食用米の生産量が増えるとは見ておらず、新年度(6年11月~7年10月)の需給はタイトな状況が続くと予想するなど見方が大きく分かれる。もう一つ注目されるのが収穫予測が出た後、今月末に開催される食糧部会で、令和のコメ騒動が検証されることになっており、コメ政策の在り方まで言及される可能性がある。このことの方が6年産の生産量増加よりインパクトがある内容が公になるかもしれない。
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