【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】石破農水大臣による画期的な2009農政改革案~米国型の不足払い制度の導入2024年10月10日
「米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向」
2009年9月15日に、当時の石破茂農水大臣が「米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向」を発表した。
https://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/pdf/090915_data1.pdf
その中で、ベストの選択肢として示された政策案は、「農家に必要な生産費をカバーできる米価水準と市場米価の差額を全額補填する新たな米価下落補てん対策」、まさに、米国型の不足払い制度の導入であった。
提案書には、「いわゆる品目横断的対策(ナラシ)は、補てん基準が5中3平均の価格であることから、米価が年々下落する局面では基準自体が下がり、補填額も徐々に減っていくことになる。他方、新たな米価下落対策は、生産費を確保できる補填水準が維持されることで、中長期的な経営の安定化を図ることが可能となる」と説明されていた。
具体的には、コメの生産調整を選択制にして、生産調整参加農家には、約12,000円程度の平均生産費(コストダウン効果を見込んだ水準)との差額を補てんすれば、年平均3~4,000億円の財政負担でコメ農家を支えることができ、かつ、消費者は価格低下によるメリットが生じる、というものであった。
今も生きている石破政策
その約1か月後に民主党政権が成立し、結果的には、この農政改革案は、民主党が提案していた「戸別所得補償制度」に受け継がれることになった。その後、再び、自公政権となり、戸別所得補償制度は廃止された。
しかし、石破議員は、2024年5月9日の日本農業新聞大会の挨拶においても、「価格転嫁と言うが、消費者価格も高くなりすぎないように、農家の赤字を補てんする所得補償に財政出動することで生産者と消費者の双方を助ける仕組みが必要」との趣旨を述べられた。同じ会場で、筆者には、「当時、一緒に議論した政策を今も念頭に置いている」と話しに来られた。
『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ』をベースにした農政改革
この提案は、農水省が石破農水大臣の指示の下に行った分析結果に基づくもので、このシミュレーションに使用されたのは筆者の計量モデルの改良版だった。
実は、2009年の初め、当時の石破農水大臣が、2008年に筆者が刊行した『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ』(創森社)を三度熟読され、大臣室で当初は二人だけで相談し、この本に基づいて農政改革を実行したいと表明された。
総力を結集した「農政改革特命チーム」
それを核とした農政改革を進めるために、内閣官房長官、農政改革担当大臣(農林水産大臣)、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣をメンバーとする「農政改革関係閣僚会合」が組織され、その主旨は、次のように説明された。
「中長期的には世界の食料需給がひっ迫することが見込まれる一方、我が国農業の生産構造の脆弱化や農村地域の疲弊が深刻化している。このような中、我が国農業の持続可能性を確固たるものにし、我が国のみならず世界全体の食料需給の安定化に貢献する観点から、農地制度や経営対策、水田の有効活用方策、農村振興対策など食料自給力の向上や国際化の進展にも対応しうる農業構造の確立に向けた政策の抜本的な見直しを検討するため、内閣官房長官及び農政改革担当大臣の主宰による「農政改革関係閣僚会合」を開催する。」
そして、その下に、内閣官房内閣参事官(内閣官房副長官補付)、内閣府大臣官房審議官(経済財政運営担当)、総務省大臣官房企画課長、財務省主計局総務課長、農林水産省大臣官房総括審議官、経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局・地域経済再生担当)をメンバーとし、筆者らがアドバイザリーメンバーとなった「農政改革関係閣僚会合」特命チームが任命された。チーム長は農林水産省大臣官房総括審議官の針原氏であった。
2009年1月から14回の特命チーム会合が開催され、生産者、消費者、その関連組織、流通・加工・小売業界など、農業・農村・食料に関連するすべての分野から詳細なヒアリングを精力的に行い、総合的な検討が行われた。
筆者の計量モデルを農水省が改良してシミュレーション分析
その検討の「目玉」は、新たなコメ政策の提案であった。
『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ』の[補論4]で、筆者が開発した計量モデルが農水省に持ち込まれ、省内の優秀なスタッフにより精緻化されて、新たなシミュレーション分析が行われた。筆者のモデルによる2008年の拙著の政策提案は、
「コメの生産調整を廃止して、これ以下には農家手取りを下落させないという「岩盤」米価を12,000円/60kgとして、それを下回った販売価格との差を政府が補填する場合には、財政負担は減反廃止直後には一時的に大きくなるものの、その後はコメ関税が190%くらいまでに維持されれば、3,000億円台の財政負担で対応でき、我が国の水田農業、農村、コメ自給率を最低限維持できる。」
というものだった。
これをベースとして、石破農水大臣の指示の下、農水省の尽力により精緻な分析が行われ、誕生したのが、「農家に必要な生産費をカバーできる米価水準と市場米価の差額を全額補填する新たな米価下落補てん対策」の必要性を打ち出した2009石破農水大臣案だったのだ。その石破議員が、今、総理大臣である。農政に大きな一歩がもたらされる可能性に期待したい。
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