シンとんぼ(113) -みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(23)-2024年10月12日
シンとんぼは令和3年5月12日に公表された「みどりの食料システム戦略」をきっかけに始まり、みどり戦略の大義である「安全な食糧を安定的に確保する」を実現するために、現場は何をすべきなのかを考察している。シンとんぼなりの結論は、「現在ある技術を正しく活用すれば、新たな技術開発やイノベーションを待たずとも、みどり戦略の大義は達成可能だろう」ということだった。そこで、みどり戦略対応のために農業現場はどう動くべきなのかを探りながら持論を展開しており、現在は有機農業の取組面積拡大に向けた新技術をテーマに検討を行っている。
今回は、2050年までに実用化を目指している「幅広い種類の害虫に対応できる有効な生物農薬供給チェーンの拡大」について検討してみようと思う。
みどり戦略の新技術説明資料によると、様々な害虫を捕食する生物を探索し、それら有効な生物農薬の普及拡大に対応する供給チェーンを構築し、安定した原料調達、効率的な生産・調整、需要に応じた供給・在庫管理によって効率的な物流を実現し、その結果、効率的な害虫防除が行なわれるようになることを目的としているようだ。
有力な天敵としてハダニ類に効果のある「チリカブリダニ」、コナジラミ類やアザミウマ類、アブラムシ類に化学農薬と同等の効果を示す糸状菌である「ボーベリア バシアーナ」が例示されている。ただ、生物農薬の有効成分である天敵昆虫や天敵微生物には得て不得手があるのが当たり前で、防除対象となる害虫幅は比較的狭いものが多い。生物農薬を害虫防除の主体とするのであれば、防除対象の害虫ごとに漏れなく天敵生物を探していかなければならないだろう。研究が進み、全ての害虫ごとに効果の高い生物農薬が見つかって欲しいと願っている。ただ、前出の説明資料で真っ先に違和感を感じたことがある。それは、"安定した原料調達"、"効率的な生産・調整"、"需要に応じた供給・在庫管理"などと、生物農薬をまるで工業製品と同じような扱いをしていることだ。
もちろん、資料にある生物農薬の供給チェーンが出来上がれば有益であることに間違いはないのだが、生物である生物農薬にとってはいずれも実現のハードルが高く感じる。特に、"需要に応じた供給・在庫管理"は、生物農薬の取り扱い経験者であれば、「どうやってやるの?」と首を傾げるのではないだろうか? もし、実現する手法が既にあるのであれば具体的な手法を明らかにしてほしいものである。どう考えても、単に理想を書いただけで、有機農業の拡大を推進する技術としては弱く、目標としている25年後(2050年)までにどれだけ実用性のある技術になっているかは未知数だと思うのはシンとんぼだけだろうか?
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