つぎはぎだらけの衣服【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第312回2024年10月17日
赤ん坊のおむつ、1950年代までは今のように紙ではなく布であり、それも自分の家で、木綿の反物や古くなった浴衣などをほどいてつくったものだった。だからいろいろな模様のおむつが万国旗(さまざまな国の国旗をロープに多数繋げたもの)のように干されている物干し竿を見ると、あそこの家には赤ちゃんがいるなとほほえましく眺めたものだった。
赤ん坊のころは着物を来ているのが普通であり、私のそのころの写真も着物姿である。走り回るようになっても着物だった。もちろん洋服も着たが、着物姿で遊んでいる子どもが多かった。
小学校に入る頃になると洋服(学生服)である。都会ではもう洋服に変わりつつあった。
しかし農村部ではまだ着物が多かった。もちろん山形市内でも昭和初年のころの小学校の記念写真を見ると多くの子どもが着物を着ていた。
宮城県の農村部の町で育った家内が小学一年のとき(1940年)祖母に連れられて東京の親戚の家に行った。そのときは着物を着て行ったという。一番上等の訪問着だったというが、親戚の家ではあわててそれを脱がせ、その家にあった洋服を着せてくれた。家内はそれが強く印象に残っているという。
着物を着るなどというのはもはや都会ではなくなりつつあったのである。私のところでもそうで、外に行くときはいつも洋服だったし、5歳で祖父母に連れられて函館の親戚に行ったときも洋服だった。だから家内の話を聞いたときは思わず笑ってしまった。そしたら家内はちょっとだけいやな顔をしたが。
それでも、小学校に入学した頃は洋服を着て通学する者、着物を着て通学する者、半々くらいになっていたようである。
そんな話を私の高校時代の同級生で東北大医学部を卒業して医師になったAK君にしたら、自分の住む村では小学校時代はみんな着物、しかも帯などなく、縄で着物を縛っていたという。ランドセルなどもちろんない。教科書など学用品を包んだ風呂敷を背中に斜めに背負って前で結んで通学したものだ、全員そうだったとのことである。
驚いた、彼の住む村は当時(1954年の昭和の大合併以前)の山形市の中心部から約10㌔しか離れていない、と言っても当時は徒歩の時代、2時間以上かかる、今の新幹線でいえば東京ー山形間、だからそうした通学姿は当たり前、何の抵抗感もなく子ども時代を過ごしたという。
その格差問題はちょっとここではおくが、ともかく1940(昭15)年ころは都市部の学校への通学はみんな洋服になっていた。寝るときだけ着物の寝間着に着替えさせられたが。
でも、新品の衣服などめったに着られなかった。兄姉や叔父叔母のお下がりや中古の同じ服を何日間も繰り返し着るのが普通だった。
高くて買えないからである。食うのがせいいっぱいのとき、服などに金をかけていられない。私の幼い頃に刊行されていた『少女倶楽部』や『少女の友』などの少女雑誌に載っていた中原淳一などの描く美少女が着る西洋人形のようなきれいな洋服など、まさに夢のまた夢だった。
ましてや戦時中から戦後にかけては買おうにも服を売っていなかった。たまに服の配給があるが、くじ引きで当たらないかぎり、今までの服を着ていなければならない。当然服にほころびが出てくる。転んだり、けんかしたりで穴があく。母や祖母は子どもを怒りながらつくろってくれる。だからつぎはぎだらけの服を着ているのが当たり前だった。
今のように洗濯機があるわけでないので、洗濯にはかなりの時間がかかる。これも何日間も着ている理由だ。だから泥だらけにしたり、汚したりするとさんざん怒られる。
しかし、つぎはぎだらけでも、毎日同じ服を着ていても、それで他の子どもからいじめられるということはなかった。みんな同じだったからである。ただし、ぼろぼろだったり、垢だらけだったりしたとき、要するにだらしないかっこうをしているときだけは、子どもの間での悪口の対象になった。
縫い直し、編み直し、染め直し、打ち直しは当たり前だった。母や祖母は暇さえあれば針をもってつくろっており、冬には古くなった毛糸をほどいて編み棒で毛糸の服をつくっていた。衣服を捨てるなどということはほとんどなかった。ぼろになってもう使えなくなったら雑巾にするなど、最後の最後まで使い切った。
こんな時代に生きてきたからなのだろう、流行遅れになったからといって、ちょっと切れたからといって簡単に捨てる、私にはどうしてもそれができない。
身に染みついた貧乏性、この年令になっても、こうした時代になっても、まだ治らない、時代遅れの年寄り、困ったものである。
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